あるベトナム人学生たちの訪日【小尾春氏@ベトナム】

第6回 あるベトナム人学生たちの訪日

地震が起きてから、私は少々人と会うのが億劫になってしまっている。

私の両親と祖母ある縁で、交流プログラムで来日したベトナム人学生たちのアテンドをした。

彼らは皆、ベトナムの名門大学に通う理系の学生たちだ。
プログラムに参加するにはそれなりの選抜もある。

「きっと優秀で、恵まれた家に育って、学校からも高い評価を受けている学生ばかりなんだろう」

と思いながら彼らを出迎えた。

まず、彼らと対面して驚いたことは、概ね小柄なこと。
ハノイやホーチミン市などの都会で出会う子供たちには、随分大柄な、もっと言えば肥満児のような子供も随分増えて来ているが、男子学生だけでも10人以上いる中で、165センチある私の身長を越えていそうな子は殆どいなかったし、太めの子もいなかった。

そして荷物もとても少なく簡素だ。
10日近い滞在日程なのにリュック一つの子もいる。買い物もあまりしない。
折角の日本滞在、子供によっては親に日本円をたっぷり用意してもらってプレイステーションやら家電製品やらを買い漁る子もいる中で、彼らは100円ショップやドラッグストアでお土産を少しだけ買う以外は、殆どお金を使っていなかった。

震災直後の訪日で家族は心配しているだろうに、国際電話をする学生も全くなく、メールやチャットなどお金のかからない方法での連絡をするだけだった。
勉強ができ、大学まで進んだ優秀な学生たちであることは確かだけれど、お金がないことも明らかだった。

「苦学生」なんて言葉がぴったり合いそうだ。

いろいろと話をしてみると、彼らは大体地方出身者で、苦学して都会の大学に合格したようだった。
富も栄養も多くは都会に集中した話なんだなあと改めて感じる。

また、プログラムを通じて彼らが見せる素直さや率直さにも驚かされた。
どんな訪問先でも目を輝かせて話を聞き、熱心に質問する。

あまりの質問の多さに、迎える方も喜び、話にも熱が入る。
そして観光では心から嬉しそうにはしゃぐ。
そんな彼らはどんな場所でも愛され、歓迎された。そしてプログラムはいつも延びて、時間は押し気味だった。

「あなたはきっととても優秀な学生さんなんでしょうね」。

金融出身の人たちなら「何をそんな当たり前の質問を」とでも反応しそうなところだが、彼らは「とんでもない。

僕の学業のレベルはごく平凡です。
ただ社会活動に熱心だから、今回推薦してもらえたんです」
などと話す。

社会活動というのは、所謂ボランティア活動のことのようだが、こんなに謙虚でまっすぐなベトナムの人たちに、久しぶりに出会った。

私が仕事で、ベトナム人の同僚たちと会社を訪問し、先方から渡された会社資料を訪問先の待合室に同僚が捨ててしまったのを、拾い集めながら先方に謝っていた時でも、お客さんとの会議中に全く相手の話を聞かないばかりか私に

「今日のあなたのブラウスは素敵だけれど、どこで買ったの?」

などというメッセージを携帯に送ってくる同僚に唖然としていた時でも、同じベトナムの空の下にこういう人たちも生きていたんだなあ、なんてちょっと感傷的に思ってしまった。

また、長くベトナムにいると言っても、接している世界はごく一部でしかないんだとも改めて感じた。

駐在員たちは、1年もベトナムにいれば、大体わかったような気になるようで、

「あいつらバカですよ…」なんて悪口もよく聞く。

また私自身も「ベトナムって…〇〇〇じゃない?」

なんて、すぐに一般化して話したりする。

しかしそういう批評のベースになる実体験は、その国の本当に限られた世界でのことでしかなく、知らないことの方がむしろ多いのだ。

しかし、ベトナムの多様な姿に一番鈍感なのは、当のベトナム人達自身なのでは、という思いもある。

都心に住む富裕層の人たちは地方の姿や貧富・栄養の格差について、外国人より知らないし、意識してないと感じることもある。…が、この話はまた別の回に改めて記したい。

理系の学生たちにとって、日本はまだまだ憧れの留学先。
今回参加した学生達の中には、日本への留学を真剣に検討している人たちもいた。

彼らが近い将来日本に来て、更に沢山の日本人たちに愛されればいいなと思う。

著者紹介

小尾晴(おび はる) 旧姓 大村
サイゴン証券株式会社 Director 兼 日本ビジネス開発部部長

小尾春氏

1973年石川県生まれ。
津田塾大学学芸学部国際関係学科卒業、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。大学院在学中にハノイ国家大学に留学。
農村開発調査コンサルタントとしてJICAやJBICの案件に参加後、日本アジア投資株式会社に勤務、ホーチミン市に赴任。
2007年よりベトナム最大の証券会社であるサイゴン証券株式会社に当時唯一の外国人スタッフとして勤務、日系顧客を担当。
現在は退職し日本に帰国、通訳として活動中。

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