台湾客家に残る伝統的なお茶【市島宋氏@台湾】

第2回 台湾客家に残る伝統的なお茶

台湾の人口は大きく分けて『台湾原住民』と第2次世界大戦以前に大陸から渡って来た『本省人』、終戦後に渡って来た『外省人』から構成されていると言われますが、本省人の中に特徴的な文化を持った客家(ハッカ)と呼ばれる人々がいます。

もともと客家の人々は中国大陸の中原と呼ばれる華北平原一帯に住んでいた漢民族の一派だったのですが、度重なる戦乱を逃れるために古くは4世紀初頭から南下をはじめ、長い年月をかけて福建省や広東省に辿りつき明朝末期~清朝始めにかけて台湾に渡ってきたと伝えられています。

古代から最も文化の栄えた中原をルーツに持つことからか私の友人達も『客家』であることに強い誇りと愛着を持っているようで、ある日本統治時代を体験した世代の方が自らの経歴を語る中で「私は客家人として生まれ、日本人として教育を受け戦後は中華民国人になった」と語っていた言葉が私の胸に強く残っています。
『客家人』という国家ではない枠組みが先頭に立っているのが面白いですね。もし『客家精神』というものが有るとすれば、それはおそらく政治が生んだ枠組みを外から眺めつつなにか普遍的なものを探求するような、そのようなものかもしれません。

また一般的に客家の人々は『勤勉』・『倹約』と評価される反面、比較的閉鎖的だと言われる傾向もありますが、そのぶん客家文化の中には古い時代の風習などが数多く残っているために近年台湾では客家文化がにわかに注目されており、客家人の多く住む地域が観光地として人気が出たり街中にも客家料理の看板が増えつつあるように感じます。

さて、客家の伝統的なものの中にはお茶に関係したものも多く、なかでもこの季節に好んで飲まれる『酸柑茶』(さんかんちゃ)は、古代のお茶の姿を現代に伝えるユニークなお茶です。

酸柑茶は、虎頭柑(ふうとうかん)と呼ばれる日本の柚子をハンドボール程に大きくしたような柑橘果実のヘタの周囲を丸く刳り貫き、そこから内側の果肉を全て抜き取った後、その果肉と茶葉を混ぜ合わせて再び皮の中に詰め込んだものを焙煎して作られるのですが、完成した酸柑茶は柑橘果実特有の甘酸っぱい香りと外形は残しながらも深い焙煎のために炭のように硬く、色もこげ茶色~黒色に変化したなんとも面白いお茶に仕上がります。

飲用の際にはこれを砕いてお好みで氷砂糖を加えて10分ほどグツグツ煮込んでお茶を煮出すのですが、煮出した真っ黒い液体はお茶というよりもむしろ漢方薬に近いイメージ。

それもその筈で、酸柑茶は寒いこの時期に身体を温め、風邪を予防する効能を期待して飲まれる健康飲料なのです。

その他にも客家には、すり鉢の中に生の茶葉、ピーナッツ、ゴマや漢方などを入れてすり潰し、ペースト状になったものに熱湯を注いでスープのようにして飲む栄養満点の『擂茶』(レイチャ)なども伝わっており、その昔お茶の効用に注目しつつ身近な食品として、または薬として利用されていた時代のお茶の姿、現代のように嗜好品としての地位を確立する以前のお茶を垣間見ることが出来るのが非常に興味深いところです。

そして今年も桃園縣・新竹縣・苗栗縣などに多い客家系の茶農家では、本来ならば農閑期の12月末ごろから旧正月までの間に酸柑茶作りでもうひと頑張り!

1年の最後までしっかりと働き終えて新年を迎えるという、なんとも働き者で有名な客家らしい年末の情景がくり広げられるわけですね。

著者紹介

市島宋氏:台湾福茶代表

市島宋

1974年、宮崎県生まれ。宮崎産業経営大学卒。
スポーツインストラクターを経て、国内のエンジニア派遣会社に入社。主に台湾、韓国、アメリカで数多くの半導体・液晶パネル工場立ち上げに携わる。
2000年、偶然口にした一杯の烏龍茶に魅せられてお茶の世界へ転身、台湾省 茶業改良場の有機栽培研究員と共に約2年間現地の茶農家を渡り歩き茶業全般を 学び2003年に台湾福茶を立ち上げる。
現在も台湾を拠点に、馴染みの茶農家 達とお茶を作りながら活動している。

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