お人よしの強さ【小尾春氏@ベトナム】

第5回 お人よしの強さ

地震が起きてから、私は少々人と会うのが億劫になってしまっている。
私の両親と祖母は福島県に住んでいる。
原発からは60㎞離れていて、避難指定区域ではない。
幸い3人とも無事で、家などにも損壊はなかったものの、しばらくライフラインが整わなかったりといった不便があった。
また今は放射能に対する不安からなかなか解放されない。

時間が経って大分薄れてきたが、地震発生からしばらく、ベトナム人は8500万人総評論家という感じで地震や原発についていろいろと批評していた。
福島に家族がいる私は格好の標的になった。
「何、お前の家族は福島に住んでいるのか?
心配だろう?」と詰め寄られ、「命は無事だし大丈夫、心配ないよ。」と言うと「本当に心配ないのか?
家族なのにどういうことだ」と責められる。
じゃあ、と思って「すごく心配なのよ」というと、今度は「あまり気に病むのは良くない」と説教される。
更に食べ物は全部放射能で汚染されているんだから食べ物を送ってあげなければいけないだろうとか、福島の家は捨てて引っ越しさせるべきなんじゃないか、引っ越しさせずにおくなんて随分気楽なのね、云々。
普段なら、このお節介ぶりを有難いと思う余裕があるのだけれど、今回ばかりはへこたれてしまった。

…とまあ、くたびれてばかりもいられない。
人の内側に遠慮なくどんどん入ってくる彼らを面白いと思えなければ、この国の人たちともつきあっていけないのだし。
しかし余裕を持つこと、元気でいることがなかなか難しかった。
また空気を読んで、敢えて踏み込まない日本人の人との接し方はやっぱりいいなあ、などとも思った。

だが、当然こんな余計なお節介を焼く人ばかりではない。
日本の人たちの忍耐強さ、震災の被害の中でも秩序を守る様子を見て素晴らしい、ベトナムではありえないと言ってくれる人も多い。
平時でも列に並ばず秩序を守らない人ばかりのベトナムで何かあったとき、とてもこうはいかないだろうと私も思う。
日本にはやはり国のシステムに対する信頼がまだあって、きちんと秩序を守っていれば早い段階で支援が来ると信じられる国であるということも、大きかったのだろう。
ベトナムは国や政府に対してそんな信頼を持つことができない状況にずっとあるので、ズルをしてでも利益を得て家族や自身を守った方が勝ち、という発想が強いように思う。

そういう環境で育った日本人とベトナム人個人が同じ土俵で向かい合うと、どうしてもベトナム人の方が押しが強くて、日本人はお人よしで負けてしまう感じがする。
私も、ベトナム人に囲まれての仕事では、ベトナム人の気の強さに気圧されつつ、戸惑いつつ何とか
対応している。
そもそも温室で育ってきた日本人の自分では勝てるはずもない…と思ったりもするのだけれど、今回世界で賞賛された日本の状況を見ていて、お人よしの強さというのもあるのかな、と思うようになった。

ベトナムでは「一人の日本人と一人のベトナム人ではベトナム人が勝つが、三人の日本人と三人のベトナム人では三人の日本人が勝つ」などという諺(?)がある。
同じ意味で「ベトナム人はダイヤモンド。個人は素晴らしいが結束できない。
日本人は粘土。個人はパッとしないがくっついて結束することで力を発揮する」というような言葉もある。
この言葉を最初に聞いた時、私はあまり良い気分がしなかったのだけれど、粘土の良さ、お人よしの強さというものがあるのなら、それを追求してみたいなと改めて思う。

著者紹介

小尾晴(おび はる) 旧姓 大村
サイゴン証券株式会社 Director 兼 日本ビジネス開発部部長

小尾春氏

1973年石川県生まれ。
津田塾大学学芸学部国際関係学科卒業、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。大学院在学中にハノイ国家大学に留学。
農村開発調査コンサルタントとしてJICAやJBICの案件に参加後、日本アジア投資株式会社に勤務、ホーチミン市に赴任。
2007年よりベトナム最大の証券会社であるサイゴン証券株式会社に当時唯一の外国人スタッフとして勤務、日系顧客を担当。
現在は退職し日本に帰国、通訳として活動中。

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