身近に潜む賠償問題その1【野村義樹@深圳】

第1回 身近に潜む賠償問題その1

もう10年前、天津という街に留学すること16ヶ月、現在深圳に来て仕事をして3年半かれこれ6年弱という時間を中国で過ごしている。

もちろん広大かつ歴史のあ中国という国をたった2つの都市に6年弱という時間で理解できたとは全く思わないが、深圳という街で私という人間が現在進行形で経験し、考えたことを発信することにより少しでも、この捉えようのない大きな「中国」を皆様に感じて頂ければ幸いである。

今回は、現在進行形で起きている「賠償問題」についてである。

最初に、簡単な状況説明をさせて頂きたい。

現在、弊社では深圳市の万象城という深圳市内では一番の集客力を誇るショッピングセンターの1階にて2フロアー約300席の日本料理屋を経営して5年目になる。

事件の発端はある晴れた日の夜に起こった。
2つある入り口のうち、階段がある入り口付近で、大きな音がしたと思ったら一人の女性が地面に倒れていた。
近寄ってみると頭から少し血を流しておりどうやら階段から落ちたようだ。

従業員がお絞りを持って手当をしながら、救急車を呼んだ頃には先に来て食事をしていた女性の友達3人も、自分の友人が怪我したことに気づき怪我人の周りを囲み、慌てながら知人に連絡を取っている。

その時、一人が携帯で倒れている友人や、店の中を撮影している。
更に、看病している店長や私の顔まで撮ろうとした時にピンときた。

「これは賠償問題に発展させようとしている」

当日は天気もよく、階段が濡れて滑りやすいような状況ではないし、階段の上下から照明も十分に照らされており、暗くて段を踏み外すような状況ではない。
手摺もついており実際、開店してからの5年間で転んだ人は、今までひとりもいない。
ショッピングセンターの警備員も「ここで何で転んだんですか?」と確認するくらい完全な自損事故だ。

救急車が来て、怪我人を連れて行く際に、先ほど写真を撮っていた友人が「あなた達も付き添って来なさい。それが義務でしょ!」と強い口調で日本人店長に言いかかり日本人店長もお客様を心配する気持ちから「では、」と一緒に行こうとしていた。

でも、その時私は嫌な予感から間に入って、店長を諭し一緒に病院に行かせなかった。
というのも数年前にあったある事件を思い出したからだ。
その事件とは、バス停留所で転倒したお婆さんを助けて病院に送ってあげた青年が逆に「私はこの人に押されて転んだ」と、お婆さんが主張し訴えられ、一審では青年に4万元以上の賠償金を払う責任があるという判決が出された。

この事件は中国でもネットを中心に大変な議論を巻き起こし
「良いことをした結果、酷い目にあうなんて割に合わない」
「今後、街角で老人が倒れていても助けるのはやめよう」
という世論が高まった。

これ以外にも、混みあっているスーパーで転んで怪我をしたお客さんが裁判を起こし医療費、仕事が出来なかった分の保障、今後発生する可能性のある治療費などをあわせて118,600元(約150万日本円)を賠償する判決が出たりしている。

その後、時間を置いてから店長がどうしても気になるというので
「責任をとるというような軽はずみな発言は一切しないように」
と念を押して病院に行ってもらった。

幸い、命に別状もなく頭の打撲と手首の骨に問題がある程度で関係者も、店長が病院に行って心から心配する様子に雰囲気も和らぎ3時間後、店長が最後に帰る時には「ありがとう」という声もかけられ賠償などの言葉は一切出なかったという報告をうけ、疑り深くなっている自分の杞憂に終わったことに反省しつつも、ホッとした。

ところが、そう簡単には終わらなかった…
何日かたった後に、怪我をした女性の夫から
「どう責任を取ってくれるんだ?話しをしに店に行くからな!」
という電話が入る。

そして夫、当日にいた3人の友人の内の2人、誰かの知り合いの男性という4人でお店に来る。
最初から
「こんな事件を引き起こした責任をどう取るんだ?」
と自分で転んだ側とは思えない言い口。

こちらが現在の怪我をされた方の状況を聞いても、

「話はいいから、金を出せ!」

と興奮状態になっている。

「どう対応すべきかを考えますので診断書などと同時に要求内容を書面で頂けますか?」

と丁寧に聞いても

「人を100人くらい集めてプラカードを持たせてお店の前に立たれるのは好きか?」

と脅迫まがいの台詞のオンパレードで話しが一向に進まない。

書類で要求を書いてくれということに対して、
「人間としての感情があれば、先に病院に行ってお金を払うのが筋じゃないのか!オレは学が高くないから字なんか書けない!」
と夫がわめき散らす(注:中国の病院は料金を前払いしておかないと治療してくれない)
それらの罵声の猛攻を日本留学経験のある中国人の2号店店長と一緒に耐えながら何とかまずは書類で要求を提出してもらうことを了承してもらった。

まだ結果は出ていないだろうが、中国人の法律に詳しい知人などに聞いてみても現状の相手のやる気から推測すると弊社として何らかの経済的支出は免れないだろう。

アメリカは言うまでもなく日本でも最近は類似する訴訟が起こっているが中国ではこの手の話しは頻繁に聞く。
耳にする頻度から考えると2店舗で延べ8年以上経営していて一回目というのは運が良かったのかもしれない。

今回、弊店で起きた問題の進展については今後また記事の中で報告したいと思う。

今回は最後に中国の知人が私にかけてくれた言葉で締めくくる。

「野村さんは、また中国について一つ詳しくなったね!中国は奥が深いだろ?」

「確かにね・・・」
他に何も返す言葉がなかった。

著者紹介

野村 義樹
元ベンチャー・リンク香港 董事長

野村 義樹氏

東京生まれ。
慶應大学法学部政治学科卒。
大学在学中に文部省の奨学生として天津市南開大学に留学。
ベンチャー・リンクに入社後は営業、直営飲食店勤務を経て台湾にて居酒屋「火間土」の初代店長として立上げを行う。
約2年の台湾店長時代を経て、中国は深圳に店長として移籍。
深圳着任3年目以降はベンチャー・リンク深圳の現地責任者に就任。

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