シンガポールのインターネット上での不動産仲介事情について調査をしていた折、ある地元系不動産仲介業のシンガポール人オーナーがこう発言した。
「当地で日本語での物件リスティングが無いのは市場性が無いのではなく、日系不動産会社は怠惰なだけだ」と。
現在シンガポールでは、不動産物件をリスティングする主要なポータルサイトは2つある。
これらサイトには日々様々な不動産仲介業者が物件を入力・更新している。「このようなサイトが日本人コミュニティのためにも有用ではないか」という仮設を立て、調査を行なっているとき先のようなコメントが得られた。
その発言とは反するように、ある日本人不動産仲介業経営者はこう言った。
「日本人は不動産についてネットは利用しないですよ」と。
どちらが本当だろうか。また、日本人とシンガポール人および非日本人居住者とでは全く違う性向を持っているものだろうか。仮設を挙げながら検証してみたい。
仮説1,卵が先か鶏が先か
そもそも現在日本語でのリスティングサイトが無いため、見ることができない。だから「みない」だけなのではないか。
仮説2,日本人駐在員を相手にするだけでビジネスが成り立ってきたから
従来の日系不動産会社は、比較的予算の高い日本人駐在員を相手にするだけでビジネスが成り立ってきた。不動産仲介業者は会社における人事部を押さえておくことで顧客を獲得・維持できてきた。
これは、仕事以外のことに強く関心を示すことをよしとしない日系企業の雰囲気と、会社が紹介する仲介業者を実質断ることができない、という実情が既存の不動産仲介業者に有利に働いてきたからではないか。
また、一度付き合いだした仲介業者を簡単に信用することや、長い付き合いをしようとすること、英語での様々な手続きを面倒だと思うことなどが起因しているのではないか。
仮説3,日本人市場は小さいから
シンガポールに在住する日本人は3万人強と言われている。シンガポール全体の人口500万人からみるとわずかだ。
このコラムで結論を急ごうとは思わないが、現在シンガポールの日本人社会では下記のような傾向がみられるため、リスティングサイトがビジネスになる可能性があるように思われる。
・駐在員の待遇が薄くなってきている。
・中小企業オーナーや個人事業主など駐在員以外の人口が増えている。
・従来の日系不動産会社では相手にされてきていない現地採用者などの予算の低い人達は、インターネット上の掲示板や新聞紙面上から情報を得ることが少なくない。
またこのサイトが成立した際の社会的価値は下記のようになろうかと思われる。
・従来の日系不動産業が真剣に取り組んでこなかった低価格帯が十分にビジネスとして成立するエリアだということが明らかになる。
・比較対象が可能な物件が増えることにより、交渉して獲得する物件そのものの販売価格/賃貸価格に柔軟性が生まれ、結果そこからはじき出される不動産仲介業者の手数料が低廉化する。
・従来資金力や情報発信能力の低かった小不動産業者や日本語を話す地元のフリーランスのエージェントなどが参入しやすくなり、平等に評価を受けやすくなる。
十分に取り組みがいのあるビジネスになるのではないだろうか。