日本語世代から学ぶ日本人像【渡邊崇之@台湾】

「友愛日本語クラブ」

ここ台北には戦前の日本語教育を受けた世代を中心とする日本語学習サークルが存在する。
1992年に「友愛日本語クラブ」として日本人を含め9人でスタートしたこの会は現在「友愛グループ(張文芳代表)」という名称で引き継がれ、現在は在籍会員が160人を超えるまでになり、今でも会員が増え続けている。
メンバーの8割以上は戦前の日本統治時代に生まれたいわゆる「日本語世代」だ。
毎月第3土曜日の月例会には80名程度の参加があり、忘年会などの記念行事ともなると100名を超える。
平均年齢76歳もなんとやら、会場はそれを全くと言って良いほど感じさせない意欲と熱気とで充満している。

まず正午前に定例のレストランに集合し、まずくじ引きで決められた席に着席する。
ほどなくして料理が運ばれて来る。
初めてお会いする方同士でもそこは同じ時代を過ごした同志、すぐになじんで昔話に花を咲かせる。
円卓を囲んでの食事と懇談が1時間、その後ほどなくして司会者からのお知らせやゲストの紹介がある。
新加入のメンバー紹介はもとより、日本からの来賓も多い。
作家、記者、学者、経営者、政治団体、宗教団体と実に幅広い。
日本語学習という目的と共に日本語世代の皆さんと現代の日本人を結ぶ大切な日台民間交流の場にもなっているのだ。

さて、紹介が終わると、まずは、日本人女性によるエッセイの朗読が始まる。
続いて2人の日本人講師によりそれぞれ手作りで用意され問題を学習する。
慣用句、ことわざ、熟語などが中心だが、これがなかなか難しい。
筆者を含めた日本人会員は常に自らの不勉強を恥じ、皮肉にも異国にて日本語の奥深さを再認識することとなる。
一方、日本語世代の方々といえば、回答は我先にと声を出して発言する。
間違いは声を上げて悔しがり、分からないものは遠慮無く質問する。
そして、講師の補足解説を必死にペンを取って吸収する。
それはまるで70年前の少年少女の姿を見るかのようである。
この意欲と熱気の源泉はどこから湧き出てくるものだろうか。
「人間は年を重ねた時老いるのではない。心の様相次第で若くもあり、老いもするのだ。」
サミュエル・ウルマンのかの有名な「青春」の詩を拝借すれば、この方々は今も青春真っ只中だ。

最後に数名の会員によるショートスピーチもある。
このスピーチは別途原稿があり、それが年に1~2度、分厚い会報誌となって会員に配られる。
テーマは実に多種多様だ。しかし、共通していることは、自分達の思いを後世に残そうと使命を持って書いていることだ。
そんな思いのこもった内容だからこそか、この会報誌は日本でもすこぶる評判が高い。
日本語世代の皆さんの原稿に託された思いに感銘を受けて、台湾に興味を持つ日本の若者も少なくない。

この日本語世代の方々は、皆一度会えばすぐに特徴を認識できる個性豊かな方ばかりだ。
にもかかわらず、皆に共通している何かを感じる。
それは実直さ、誠実さ、親切心、そして、朗らかさ、情熱、行動力、何よりお年を感じさせないパワーとでも表現したら良いだろうか。
それは日本のお年寄りと共通する部分もあるが、そうでないところもあるような気がする。
特に情熱、行動力、パワーなど失礼ながら今の日本のお年寄りにはなかなかお目にかかれない要素ではないか。
なぜか初対面でも懐かしさを覚える。
話をすればするほど、世代と世代の遺伝子が繋ぎ合わさったような連動感がある。
現在の日本人が失ってしまった、更には戦前を生きた祖父の世代からすら感じることの出来なかった「何か」を持っている、そして感じさせてくれる。
日本語世代の方々は自らの世代を、半ば誇りを持って「自分達は戦前に生きた日本人の化石だ」と言って憚らない。

戦後の日本人は戦前に生きた世代も含め、過去を一切否定させられ、捨て去せられて再出発した。
だが、歴史の断絶を放置したまま、誇りある子孫は残せない。
その為にも、半世紀以上も後世に生きる我々はその時代に起きたことをしっかり検証する責務がある。
検証とは、事実を丹念に追求すること、そしてそれを時代背景にあわせて、当時に生きた人々の心情に思いを致すことである。
その上で、それを現代に合わせて解釈し、未来に活かすことが求められている。
これは決して過去を全肯定することでも賛美するこでもない。
先人の物語を清濁全て汲み取って現代に活かし、それを後世に繋いでいく。
これは国、社会、団体、家族、全ての組織に当てはまる原則ではなかろうか。

日本語世代の方々こそ日本人が戦後失った「何か」を示して下さる稀有な存在であると確信している。
少なくともアジア生活が長く、今後もアジアで生きようと決意している筆者にとっては、
この方々の存在が台湾移住の決定的要因の一つでもあった。
「日本語世代の方々の生き様を通じて真の日本人像を追求する。」
これはいつしか私に課された使命のように思えてきたのである。
しかし残された時間はそう長くはない。
この世代の方々を通じて現代にあるべき日本人とは何かを追求して行きたい。

著者紹介

渡邊 崇之:亜州威凌克集団 代表

1972年生まれ。中央大学卒。
学生時代に、東京都主催の青少年洋上セミナー訪中団、旧総務庁主催の世界青年の船、 青年韓国派遣団へ参加。バックパッカーとしても世界約50カ国を歩き回る。
特に中国・韓国へは数を多く足を運び、北京での留学や釜山での日本語教師生活の傍ら、旅行・貿易・小売業を手掛ける。
1996年、日本の一部上場経営コンサルティング会社に入社。 数々の支援先フランチャイズ本部の店舗ビジネス立上や上場支援に携わる。
2004年、アジア担当役員として「台湾経由中国戦略」を提唱し、実際に台湾・香港・中国に子会社を創設する。その後台湾に移住。
2010年、会社の戦略変更により、同社を退社してアジア各社をMBO。自ら事業を継承することとなる。
現在は在アジア日系企業の経営支援、及び日本企業のアジア進出支援コンサルティングを手掛ける一方で、アジア各地で実際に複数業態の店舗ビジネスを展開している。
多くの中国・韓国青年達と交流した経験からアジア近代史への問題意識が強く、帰国後もその研究を続ける。
台湾移住後は、主に台湾と日本の歴史的関わりを研究。特に台湾の日本語世代との交流が深い。

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