「役割の顔」と「素の顔」【小尾春氏@ベトナム】

ベトナムも戸籍制度があるのだが、ベトナムの人たちはあまり戸籍上の手続きを重視してないなあと思う。先日も、仕事で相手の年齢確認をしていて、「1977年生まれだね。」と言うと「うん、戸籍ではそうなってるけれど、本当は76年なんだよ。」と返答された。何でも、可能な限り実年齢より若い年齢設定をした方が、その後働ける期間も長くなるし良いだろう、と両親が考えたのだとか。(しかし、学校卒業年齢が一年遅れれば同じなのでは?と後で思ったが、どうなのだろう?) 結婚届も、最近は変わっているのだろうが、少し前までは最初の子供が生まれた時に出生届と一緒に出す、なんてことが普通だったらしい。…なんてことを「ベトナムの特徴」だと思い込んでいたら、先日読んでいた本(松下幸之助氏の奥様の生涯を描いた本、高橋誠之助著「神様の女房」)で、やはり最初の子供が生まれたタイミングで籍を入れるシーンが出てきて驚いた。私がベトナムであれこれ驚いていることは、案外かつて日本でも普通にあったことで、それを私が知らないだけなのかもしれない。

話は変わって、今回のテーマ。サイゴン証券に入社する準備をしている頃だったろうか、社長にこんなことを言われた。「ハルもベトナムで家族を持たないとね。そうしないと落ち着いて長く働けないし、日本に帰りたくなられても困るし。」その時は、だったら誰か紹介してくださいよ、と笑いながら答えた。勿論冗談のつもりだったのだが、そういえば、向こうは大真面目な顔をしていた。

入社後しばらくして、突然社長から電話がかかってきた。「今日仕事があるから、夕方4時以降空けておくように。」「一体何の仕事でしょうか?」と尋ねると、「インタビューの仕事だ。」という。更に詳しく尋ねようとしたが、「まあ、行けばわかるから。」と電話を切られ、そのまま待ち合わせ場所に出向いた。
そしてその場に現れたのは、小柄なベトナム人女性と、恐ろしく背の高い白人男性だった。男性の方はカッチリとしたスーツを着て、頭はスキンヘッドで、目つきが鋭く、かなり怖い雰囲気。最初私は女性のボディーガードなのかと思ったが、社長の紹介によると、女性は社長の友人で別の会社の社長、男性はその合弁相手の責任者でオーストリア人だという。 ここまで来ても、なぜ自分が呼ばれたのか理解できない私に、社長が耳打ちした。「俺たちは適当に話をした後帰るから、後は2人で食事に行くなり、好きにしてくれ。彼は非常に頭もいいし、俺が見る限り将来性もあるし、お前と同じでベトナム滞在歴も長くてベトナム語も相当できる。背もお前より高いし。パートナー候補としては悪くないだろう?」

こんなことが、入社後、あと数回あった。社長ではなく、他の役員から紹介を受けたことも。どの人も、特に役職上の権威を笠に着て、という風でもなく、単に老婆心から私のことを心配してくれたようだった。結局よい結果にならなくても、怒るわけでも気まずくなるわけでもなかった。

また、大事な会議で真面目な話をした、その直後に「それで、お前最近彼氏はできたのか?うん?」などと同じ真面目な顔で尋ねてきたりする。ベトナム語は相手を家族関係に置き換えて呼ぶことから、相手が上司でも社長でも「社長」「部長」などと呼ぶことはなく、「お兄さん」「伯父さん」「お姉さん」などと呼びかけているのだが、その呼びかけに相応しい心配をしてくれる。もう少し言えば、肩書や役割の顔よりも、個人としての顔を簡単に見せてくれる。 私自身は結構生真面目で、仕事の上では役割の顔の中に閉じこもりがちなところがある。けれど、素の顔を見せてくれる相手は魅力的だし、何より相手をリラックスさせる効果もあるんだな、なんてことを改めて思う。

さて、紹介されたコワモテのオーストリア人男性の話。その場で食事はしたし、その後多少の連絡は取り合ったものの、特段盛り上がることもなく終わってしまった。相手の男性は私と同じ時期にハノイに留学していたこともあり、またベトナムで武術を学んでいたというかなり変わった面白い人ではあった。しかし、同じ時期に同じようなことをしていた、いわば変人同士というのは、却って惹かれあわないものなのかもしれない。今の自分を振り返り、また周囲の人を見ていても、本人とは全然違う相手と一緒になっていることの方がずっと多い気がする。

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