第3回 中国労務問題~中国の一般従業員が給与以外に求める真の待遇とは
現在の中国では、一に労務、二に労務、三にも労務と言われるほど、労務環境の変化が日々激しさを増している。
ここ深圳では2010年から住宅積立金制度が施行され、従業員の住宅に対する積立てが義務化し、企業もその半分を背負うこととなった。
また、労働組合制度の実施計画などが進むなど、企業側にとっては早急な対策が求められてきている。
また、2011年4月から深圳市の最低賃金が現在の1100元から1320元に上がることも決定している。
私が深圳に来た2008年4月はまだ900元だったので、約3年で144%の上昇となり、特に製造業などが多い華南地区の各工場では人件費高騰により更なるコスト管理が課題となってきている。
同時に、給与面での待遇が改善されても従業員が集まらないという問題も起こっている。
このように労務環境が激しく変化する中で体験した
労務問題について、今後中国へ進出される方々にお役に立てれば幸甚である。
前置きはこれくらいにして、今回の本題に入ろう。
現在中国の10、20代の世代は、「90年後」(90年代生まれの親に「小皇帝」として大事に育てられた世代)と呼ばれ、工場、サービス業など以前日本で
呼ばれていた3K職から、綺麗な職場(=オフィスワーク)への流れが加速している。
我が社の主事業である飲食業も人手不足に悩まされていた。
現在、我が社のレストランが入るショッピングセンターにも数十件のレストランがあるが、どこも最低賃金を1500元に上げて従業員募集に必死である。
それでも更に良い待遇を求め、ショッピングセンター内での人材流動も激しい。
我が社にもショッピングセンター内の別店舗の従業員がより良い待遇を求め面接にやってくる。
しかし、本当に給与を上げただけで人は集まるのか。
店舗マネージャーとして長らく彼らを見てきて感じているのは、本質は給与金額ではないということである。
確かに従業員にとって給与が多ければ多いに越したことは無い。
しかし果たしてどれだけもらえれば満足するのだろか。
一時的に給与を上げたとしても、数ヶ月後にはまたより高い給与を求める。
人間の欲望はきりがない。
求職者の就職時における判断基準が給与に偏ってしまっているのは、それ以外の判断基準が無いからだ。
現在、我が社のレストランでは在籍従業員の90%が1年以上在籍している。
給与は決して他店に比べ高くない。
しかし、我が社では働く上で付加価値を給与だけ
ではなく、個人の成長に重点をおいている。
従業員との会話の中では常に「自己成長」の文字が出てくる。
従業員の定着に頭を悩ませていた当時、毎月の給与更新前になるとマネージャーから、「ある従業員が辞めたいと言っています。給与が安いからです。」と、毎月このような報告を受けていた。
なんとか給与以外に付加価値を感じてもらい定着率をあげる方法はないかと試行錯誤する中、各種トレーニングに対して従業員が積極的に反応を示してくることが分かって来た。
例えば店内で開かれるパソコン教室。
現在我が社の従業員の半数以上が個人のパソコンを持っている。
この数値は一般労働者比較では倍以上の保有率である。
まずは、データ入力業務に従事する従業員が社内でパソコンを使うことから、個人でも購入を勧めてみた。
公私共にパソコンの使用頻度が上がった結果、エクセルを使っての資料などスキルが向上して行った。
こうして技術向上を求める意欲が向上し、仲間が増えてきた頃合を見計らい、社内でパソコン教室を
開始した。
週一回夜の営業が終わる11時過ぎから夜中の1時まで行われたが、毎回出席率は90%を越えた。
毎回宿題も提出させこちらも本気なら従業員も本気で取り組んだ。
その結果、毎日パソコンについての質問が来るようになった。
すると更に多くの従業員にもこの取り組みが伝染し上記のようなパソコン保有率になり、従業員の定着率にもつながった。
以前深圳にある日本人経営者の工場へ見学に行った時に、その経営者から
「当工場には無給でもいいから働きたいという求職者もいる。
それは単なる 工場ワーカーで終わらせるのではなく、外に出ても小さな店舗くらいは 経営できるようしっかり教育しているからだ。」
付加価値を実感できる職場、その工場はまさにそうであった。
昨今中国が日本のGDPを抜き去る勢いを見せているが、それを彼らが今すぐ直接享受できているとは言い難い。
来年、給与が数倍にアップしていることはない。
中国でよく聞く言葉に「关系:グアンシー」というものがある。
日本語に直訳すると「関係」だが、「縁故」が丁度当てはまる。
世界中どこでもこの「关系」はある程度必要になってくが、中国では特に重要と言われている。
この「关系」があるのとないのでは、全く未来が変わってくるとも言われている。
だが、ほとんどが農村出身で低学歴である一般従業員が「关系」を持っていることは稀である。
そのため、彼らは自らの力でこの社会を乗り切っていかなければならない。
彼らの未来のため、ただの一般従業員で終わることの無いよう、彼らの人材価値を向上させてやることのできる待遇(=付加価値)をどう与えていくか、それが今後の中国では労務管理のひとつのキーワードとなってくると感じる。
次回は引き続き労務関連の話題として、
入社から退社までの一連の流れについて、実務面から考察して行くことにしたい。