台湾茶業の発展期(19世紀後半~20世紀初頭)に消えた幻の東方美人茶【市島宋氏@台湾】 – LinkBiz台湾ビジネスコラム – 台湾で会社設立 台湾での起業を幅広くサポート|リンクビズ台湾

筆者の手元では一杯の茶がゆれている。

高コントラストの輝くような、それでいて何層にも重なるように深いオレンジ色。
魅惑的に漂う花蜜のような甘い香りの中に水蜜桃を想わせる小気味良さも隠し持っている。
まるで往年の『銀幕のスタア』のように優雅な佇まいと圧倒的な存在感を放つこの茶こそ、20世紀初頭に姿を消してしまった幻の東方美人茶だ。

一般的な東方美人茶は、現在でも桃園縣・新竹縣・苗栗縣をはじめとした産地で作られているが、
筆者の手元にあるのは、今では極めて希少な『烏金烏龍』【うーきんうーろん】という品種から作られた東方美人茶なのだ。
かつては最も高級な茶の一つとして盛んに取引されていたこの東方美人茶は、ある茶館に於ける5年間の平均価格でも当時の金額でトップクラスの25,278円(100斤)と群を抜く商品価格を誇っている。
このように輝かしい実績と、それに相応しい香りと味わいを持ち合わせているにも関わらず現在では『烏金烏龍』は殆ど栽培されていない。
また、茶農家や専門家であっても『烏金烏龍』という品種の存在を知る人は少なく、この品種から作られる東方美人茶の香りも忘れ去られているのが現状だ。

なぜ烏金烏龍はわずか1世紀の間に姿を消してしまったのか?

それには日本による台湾統治時代の政策が深く関わっている。
日清戦争の結果締結された下関条約(1895年)により台湾を譲り受けた日本は、それまで清朝により整備されてきた茶産業の基盤(1884年には6,000トンの生産量を記録)を受け継ぐこととなった。
8年後の1903年には台湾茶業の近代化を図るために現在の『台湾省茶業改良場』の前身となる『茶製造試験場』を設立。
手始めとして各地の土壌や気候に合った4種類の品種(台湾の『四大品種』と呼ばれる青心烏龍・青心大冇・大葉烏龍・硬枝紅心)の栽培を奨励する。
その後も製茶機械の導入や流通網の整備など数々の施策が功を奏し、茶の品質・産出量・製造量・輸出量共に飛躍的に向上することとなるのだが、栽培を奨励された『四大品種』が急速に栽培面積を増やしたのに反比例して、烏金烏龍は次第に茶園から姿を消し、市場からも烏金烏龍で作られた東方美人茶は忘れ去られて行った。

まるで「日本人が品種の選択を誤った」と非難されそうな四大品種の奨励だが、これには理由がある。
実は、筆者の手元にある東方美人茶は2年ぶりに製茶されたものなのだ。2009年・2010年は、天候不順の影響を受けて原料である烏金烏龍の茶葉が全く収穫されなかったのである。
他の品種は問題なく収穫できても烏金烏龍は収穫できない。(。で区切ってみました)それほどデリケートな品種なのだ。

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更に、台湾を領有して間もない日本は、かの乃木将軍も「乞食ガ馬ヲモラヒタル如ク飼フ事モ出来ズ乗ルコトモ出来ズ」と友人に宛てたように財政的に苦しい状況であった。
台湾を維持し発展させてゆく上で清朝時代から整備されていた茶産業の基盤は極めて重要な外貨獲得の手段であり、それを強化して効率的に収益を上げるためには、生産性が高く品質も安定した品種を選び、栽培を奨励することが必要であったのだ。
事実、この時期の茶園面積は46,406ヘクタール、年間総生産量は17,000トンにまで増加しており、1895年~1935年の期間においては茶の輸出額が台湾の総輸出額の50%を超えるという現象もみられている。

かつて、台湾茶業の黎明期(18世紀~19世紀)には福建省の各地から様々な優良品種が持ち込まれてスタートした台湾の茶業も、この時代に至り更に『選択と集中』を経験することとなった。
奇しくも20世紀初頭はそれまで茶の巨大市場であった欧米諸国が自国のプランテーションで紅茶を生産して世界市場に参入してきた時期と重なっており、国際的な競争のなかで日本政府による効果的な投資が行われた結果、まさに台湾茶業は大きな発展期を迎えたのである。

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余談となるが、筆者が知る限り烏金烏龍の茶樹は20株ほどしか確認されていない。
絶滅が危惧されるにも関わらず、残念ながら現在の台湾省茶業改良場は歴史的銘茶の保護に関心が薄く、その上、生産農家の高齢化など烏金烏龍をとりまく環境は極めて厳しいのが現状だ。
そこで筆者は近々、烏金烏龍を保護するアクションを起こそうと企んでいる。
かつて品種の選択を敢行した日本人の後代により烏金烏龍が守られるならばこれほど痛快なことは無いではないか。
そして何よりもこの茶杯から立ち昇るすばらしい香りを次世代にも享受してもらいたいと心から願っている。

 

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