閉塞感を読み解くヒント【野瀬正一氏@シンガポール】

閉塞感を読み解くヒント

日本に帰ると毎回、本屋に行ってどのような本が今売れているのかを眺めます。特にビジネス書が多いのですが、○億円稼ぐ、自由に生きる、ブラック企業、プア充、アベノミクスはチャンス…そういったキーワードが目につきます。最近はひと頃のような「いかにお金を稼ぐか」、というテーマよりも「生きたいように生きてみよう」みたいなタイトルが多いな、という印象です。
日本に住んでいるとこれらのキーワードは頭の中にすっと入りやすい、だから売れているのだと思います。しかしシンガポールで経営している立場では、あまりピンと来ない。どうしても社会現象の一部として俯瞰した気持ちで眺めてしまいます。

上記に挙げた、目のくらむような大金を稼ぐべきとか、いやそうではなくて自分らしく生きるべきとか、ブラック企業はダメだとか、それぞれ主義主張は違ったことを言っているようにみえます。しかしこれらの意味するところは1つで、それは昔のような経済成長期が目指せず豊かになるという実感を得られない現代で、我々はいかに前向きに生きるかということです。

第二次世界大戦後、その喪失感から日本は全力で豊かになるための努力をしてきました。世界的にも多くの発明が生み出され、仕事が増えて富が分配され、それが消費につながり豊かさを享受するという、今思えば良いスパイラルで明るく過ごすことができました。実際はその中でもたくさんの影の部分があったのでしょうが、世の中の風潮がそれを上回る明るい話題を提供できました。私も80年代や90年代のことを思い出すと、希望にあふれた未来が待っていると信じていたあの頃に戻りたくなるものです。
しかし現代、特に日本はこの20年ほどデフレと不景気に悩まされ、暗い時期が続きました。すっかり成功へのサンプルに事欠いてしまっています。反面、私のいる東南アジアや中国などでは、昔の日本を彷彿とさせるイケイケな雰囲気に(まだ)包まれています。世界は広いので社会現象にタイムラグが発生し、もう少しの間、舞台は移れど全世界的な経済発展を望むことができるでしょう。日本はデフレを先取りしてしまったので、その時代を生きてきた人々にはそれまでの発展一辺倒と違った価値観が根付いています。これがジェネレーションギャップでもあります。
一方、かつての経済理論では景気には波があり、金融はコントロールできるものであると説いてきました。しかしもはやインターネットや金融システムの発展とともに富の分配機能は崩れ、若者に仕事と収入が配分されなくなってきています。これは日本だけでなく世界的な傾向です。

そういった閉塞感に対する1つのヒントとして、タイラー・コーエン著「大停滞」はなかなか面白い本でした。ITの発達によりあらゆるものがほぼ無料で手に入るようになってしまった今、日本でも若者の車離れだとか音楽離れとかお金を使わないことに対する現象が取り沙汰されていますが、娯楽のほとんどが”Free”になってしまった。Youtubeを見る、LINEをする、スカイプでチャットする、これはGDPの拡大にほとんど寄与しない消費行動なのです。高度経済成長期は増える所得にしたがって、皆が欲しいものをバンバン買う、それがまた景気を良くするという好循環が期待できましたが、今はスマホやPCでほとんどお金をかけずに達成できてしまう。全く持って便利な世の中ですが、それは突き詰めれば雇用の拡大や経済成長に繋がらない消費行動が、急速に広がっていることを意味しています。
「高収入を望まなくても、ネットさえあれば、ほどほどに楽しい人生が送れる」というトレンドができてしまうのも無理からぬことです。無理して働く必要がなければブラック企業に勤める必要もないし、困難に立ち向かうモチベーションも生まれません。「憲法は国民に最低限度の生活を保障している」などと学校で学べば、生活保護というセーフティネットを使うことにも抵抗のない人がたくさん出てくるでしょう。
一方、ネットで娯楽をまかなえると言っても、日々の生活費は必要です。お金に対するコンプレックスが強まれば「もっと稼ぎたい」という人もたくさん生まれてくるでしょう。人の考えも二極化しやすくなります。

かつては車や電気製品、ファッションに向かっていたようなお金が、ネットのゲームや生活費に向かうとすると、世に廻るお金は減り、一部を除き産業は収縮します。世界におけるGDP拡大競争などは、それらの国境を越えた消費活動をカバーできず、意味がなくなってきます。またこれからの世代は「タダ」で何でも手に入ることに慣れた人達になりますので、価値観が多様化し拝金主義は後退、デフレになりやすくなるでしょう。

日本は高齢化の先頭を走っているので、それらの社会問題を先取りしている面があります。シンガポールは20年後に日本と同様の高齢化社会を迎えます。中国も然りです。高齢化による無気力化が国力を弱めるのか、新しい解決策が出てくるのか、その行きつく先がどうなるか私にはわかりません。
そのうち海外に出て起業しよう、という私の働きかけも化石のように扱われるようになるかもしれません。

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