「投資セミナーを見ていて」【小尾春氏@ベトナム】

(2012年の記事を再掲載しています。)

今年に入って、ベトナムの地方の各省が日本に来てセミナーを開催することが増えている気がする。そのうちのひとつに顔を出したが、以前と変わってきていることがいくつかあるように感じた。

ひとつは、日本の商工会等の組織のサポートはあるものの、基本的にベトナムの省が自腹を切って来日し、セミナーを企画していることだ。少し前、ベトナムブームだった頃だと、誰かから招待されて来ていることが多かったように思う。 もうひとつは、ひとつめと関連するだろうが、その地方の魅力や得られる利点などを真剣にアピールしていること。非常に具体的な特徴を挙げ、「ベトナムでの投資は困難が多い」ことを認めつつも、日本の投資家が良い成果を得て利益を上げられるよう最善を尽くす、投資家が利益を上げることが我々の喜びだ、と話していたことが印象的だった。

勝手な思い込みかもしれないが、ベトナムの外国人に関連する法律や規制を見ていて感じるのは、ベトナムに脈々と受け継がれている外国に対する怨念だ。「ちょっとでも油断をすると、外国人は我々の国を侵食し、我々をネタに儲ける。そもそも外国人は高い給料を得て得をしている。だから、できるだけ規制をして、この国の中では儲けられないようにするのが正しい」というような意思を感じる、と言ったら、言い過ぎだろうか。1000年以上も昔から、多くの国に侵攻され、支配を受けてきた経験が染みついているのだろうか。隣国のタイが外資の誘致に対してとてもオープンな政策によって成功しているのを見るにつけ、こういうのはベトナムでは無理だろうなあと思う。

私が留学をしていた1997年頃は外国人料金がまだあった。鉄道料金はベトナム人の2~3倍、外国人が住むというだけで、電気代も水道代も3倍以上の設定になっていたように記憶している。私は当時ベトナム人家族の家に下宿をしていたが、私の部屋のあった3階だけ電気や水道料金の設定が別だった。公式に外国人料金があることで、他の料金も二重価格が普通だった。ホテルの宿泊料金、バス代等々。外国人というだけで、学生も駐在員も関係なく等しく高い料金を取られるのが不満だった私は、あの手この手で外国人料金を逃れようと頑張ったものだ。雨の夜、雨合羽を顔までかぶって、ベトナム人料金のチケットで改札を抜けたり。目的の駅で下車した際呼び止められ、「ベトナム人にしては、ベトナム語を話すスピードが遅すぎる」と怪しまれたけれど、「少数民族なんです。背が高いのもそのせいです」と切り抜けた。今思い出すと、なんであんなに必死になったのかと笑ってしまうが。

その後外国人料金は廃止され、状況は随分変わったけれど、基本の姿勢「外国人に儲けさせないように規制をする」という点は、変わっていなかったように思う。ベトナムブームに押し寄せる外資を天秤にかけたりすることもよくあった。しかし、そうこうしているうちに世界経済も不況になり、ブームも下火に。以前ほどベトナムが注目もされず、他国と比較した際、際立った魅力も感じられないという状況になってしまったように思う。そんな中、工業団地を抱える地方自ら日本に営業に出る、という状況になっているようだ。

一方で、地方の各省が、日本など海外で営業をするノウハウや力を得ているということでもある。最近、日本に来ている多くの省が、既に工業団地等を持ち、日系企業を始めとした外資系企業の誘致経験がある省だ。受け入れることのメリットを体感し、より多くの企業を受け入れて行くことで地方の生き残りを図ろうと思っているようだ。そこでは、ちゃんと外国の人に来てもらって、儲けてもらおう、それを通じて自分たちも儲けていこうという真っ当な感覚がちゃんとあるように感じた。

所謂「途上国」が市場経済を導入し、国を開放して発展する際、「ブーム」が起きることがある。ベトナムも、1993年頃と2000年以降に「ベトナムブーム」があったように思う。そういったブームを経て、所謂「普通の国」のひとつになっていく。今、ブームの中心はミャンマーあたりにあるようで、ベトナムはブームの過ぎた国になったようだ。ブームが終わり、「新しい」というだけでは注目されなくなったこれからの長い時間をどうやって過ごすかが、却っておもしろいのかもしれない。

著者紹介

小尾晴(おび はる) 旧姓 大村
サイゴン証券株式会社 Director 兼 日本ビジネス開発部部長

小尾春氏

1973年石川県生まれ。
津田塾大学学芸学部国際関係学科卒業、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。大学院在学中にハノイ国家大学に留学。
農村開発調査コンサルタントとしてJICAやJBICの案件に参加後、日本アジア投資株式会社に勤務、ホーチミン市に赴任。
2007年よりベトナム最大の証券会社であるサイゴン証券株式会社に当時唯一の外国人スタッフとして勤務、日系顧客を担当。
現在は退職し日本に帰国、通訳として活動中。

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