工事現場ノイズの中、むりやり撮影する料理番組 【MATSU氏@中国・台湾】

キッチンスタジオはテレビ局内には無い

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基本的に、中国で料理番組のキッチンスタジオは、放送局の内部には無い。「局内で火を使ってはならない」という規定があるためだ。マンションの一室か、大学内部など、放送局とは別の場所に特設している。 北京電視台「食全食美」のスタジオは、北京工人体育場の外庭敷地内にある。工人体育場といえば、2011年、SMAPがコンサートを開いた場所でもある。スタジオへのアクセスを聞いて「変なトコロにあるものだな」と思いながらも訪ねると、体育場の側、ガラス越しにポツリとキッチンスタジオが見えた。「食全食美」はグルメ番組だが、幾つかのコーナーで構成されている。一流シェフが料理の作り方を教えるコーナー、北京のレストランでお薦めの料理を紹介する部分、レポーターが食べ歩く外ロケなど、分業制で各コーナーを作り上げて行く。

遠慮なく昼飯をがっつくスタッフ

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特設キッチンスタジオ。建物全体が工事を行っていた。砂と埃まみれの空間を抜け、スタジオに入ると、食べ物の香りが漂ってくる。1本目の収録が終わったばかりで、シェフが番組内で作った料理数品に、アシスタントディレクターが買ってきた大量の饅頭(マントウ)を加え、昼食が始まっていた。怒濤の勢いで食べるカメラマン。あれも食え、これも食えと薦めまくるシェフ。 中国ロケ、典型的な昼食時間の姿だ。日本のようにおとなしく食べたりはしない。


建設現場の工事中断待ち

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昼食を終え、さあ2本目の収録か・・・と思いきや、なかなか始まらない。原因は、工事の音。私がスタジオに入る前から、大音量の工事音が響き渡っていて、入ってもなお、音はうるさく聞こえていた。これでは収録は厳しいわな・・・。では一本目はどうやって収録したのだろうか。地面からの振動もあり、ドアを閉めてもさほど変わらない。 聞くと、工事音は、一本目の収録途中から始まったそうだ。スタッフは「厳しいなぁ」と思いながらも、無理やり、撮影を終えたそうだ。
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どうせ反論されるに決まっているさ

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二本目の収録は、工事音終了待ち。しかし、音が止む気配はない。 スタジオ内で私をアテンドしてくれたのは、北京電視台の別番組ディレクター呉さんである。呉さんに「こういう場合、工事の人にお願いして作業を止めてはもらえないのか?」と聞くと「頼んでも『自分達の仕事が終わらないじゃないか!生活をどうしてくれるんだ!』と言い返されるだけだ」とのこと。成す術無く、(本当になす術がないのか?)、ただぼんやり工事音が止まるのを待っているスタッフ。自力で何とかしようとは思わないのか(どうしようもできないのか)。

自分が番組責任者だったらどう乗り切るか

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「もし、呉さんが食全食美の責任者なら、事態をどう乗り切るか?」 呉さんに聞いてみた。 「僕なら、工事現場のスタッフに『15分だけ時間をくれ』と頼むだろう」 やはり、我々が考えつくのは、お願いする、という方法。 私と呉さんの話は更に盛り上がり、 「一人、撮影に直接関係ないスタッフを派遣して、工事の人にお願いする、お願いされている時間くらいは、工事の人間も少なくとも手を止めて話を聞いているだろう。イヤだと言ってもしつこくお願いする。会話の時間を引き延ばし、『時間稼ぎ』をすることで、お願いしている時間を使って密かに収録を進める。話している間に第2のスタッフを派遣し、そちらとも話をさせ、時間を作り出し、第3のスタッフには、先程の収録で余った大量の料理を彼らに振る舞い(その間に撮影は行っている)、小刻みの波状攻撃で時間を作っていく・・・」 この『時間稼ぎ作戦』は、私も撮影で使ったことがある。ロケ中に現場関係者がからんできて、撮影に影響を及ぼしそうになった際、ディレクターである私が防波堤となり(こっそりとカメラマンには「撮影は続行しておいてください」と伝え)、関係者と長い世間話などをして時間を稼ぎ、その間に撮影は全て終わらせているという手法。
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さあ、開始・・・しかし

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待っているスタッフ、1時間くらい経過した頃、工事の音が止んだ。 さあ、開始!司会者2人とシェフ2人で話を進めていく。 2本目、紹介する料理は『豚肉と空心菜のとろみ麺』。 具材を鍋に入れて、さあ炒めるか・・・というところで、また工事音。 「あっちゃー」と渋い顔をするスタッフ。収録を始めた手前、止める訳にはいかない。ガンガン工事の音がする中、仕方なく進む撮影。BGMを強くつけたり、その部分を短くしたり、ナレーションをつけたりしてごまかすしかないだろう。 なんとか2本目まで取り終えたが、騒音下で、さすがに3本目も撮るわけにはいかない。 時間稼ぎの案を提案してみようかとも思ったが、人様の番組に出しゃばって意見を言う訳にもいかない。番組にはそれぞれの流儀がある。 現場は一旦解散。 ロケの再開始時間は、午後6時。 あと5時間・・・。

著者紹介

Matsu

テレビ司会者・番組プロデューサー

Matsu

台湾のテレビ局で放送の食をテーマにした旅行番組「大口吃遍台灣(大口吃遍世界)」のMCを務める日本人テレビ司会者、番組プロデューサー。
本島の東西南北、金門、馬祖、蘭嶼、緑島、小琉球等を食べ歩き、「食の風景」を伝えている。
ロケでは、台湾のみならず、中国、アメリカ、カナダ、日本なども訪問。
番組は、国際チャンネルを通じて、香港、シンガポール、マレーシア、マカオ、ベトナムなどアジア6か国、地域でも放送。
現在は、テレビ番組製作の傍ら、司会、執筆、講演なども行う。近著:「大口吃遍台灣〜タイワングルメの旅」(四塊玉)。

番組出演:「WTO姐妹會」(八大第一台)/「聚焦360度」(年代新聞台)/ 「台湾ミュージアム」(台湾国際放送ラジオ)/「大台北城」(緑色和平電台)/「キッチンスター」(浙江テレビ)/「今天吃什么?」(大連テレビ)など。座右の銘:做最壞的打算,盡最大的努力(最悪の想定をして、最大の努力をする

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