日本でのお買い物【小尾春氏@ベトナム】

日本にやって来るベトナムの人達。その本来の目的がビジネスであっても、研修などであっても、大抵共通の「裏目的」を持っている。それは、お買い物。限られた滞在期間の中で最大の成果を上げるため、彼らは買い物のチャンスを常に狙っている。商談の前後の時間、トイレに行った時等、寸暇を惜しんで買い物に関する相談がもちかけられる。また、観光に行っても、写真を一通り撮った後は、お土産屋さんに殺到してしまうこともある。

欲しい物は、勿論収入や趣味によっても違うけれど、一方で驚くほど皆同じ物を欲しがる面もある。共通の欲しい物は、美容と健康に関する物。サプリメントと化粧品だ。サプリメントは、肝斑(しみの一種)を薄くする錠剤やコラーゲン、あとはスピルリナという海藻から出来ている健康補助剤が人気。ベトナムのどの地方から来ても、皆判で押したように同じ製品を指定してくるのは、本当に不思議だ。そして、その割には商品の効能をよく把握していない人が多いことも。スピルリナの空箱を持ってきて、「これが欲しいのよ!」と言うのでドラッグストアに行って、会計の段階になって初めて、「で、どういう効能があるの?」と尋ねて来る人も多い。

空き箱を持ってくる位なのだから、ベトナムでも手に入るのでしょう、どうしてわざわざ日本でそんなに大量に買うの?などと尋ねると、「わかってないなあ」という顔をされる。「ベトナムに売っている物なんて、偽物かもしれないし、油断できないじゃないの。だって、ベトナムで売ってるのよ?それしか手に入らないなら仕方ないから買うけれど、日本に行けるなら、そりゃあ日本で買うわよ。その方が確実だし安心でしょう?」などと、当のベトナム人が言う。

また、団の中の誰かひとりが「この商品がいいのよ、私は買うわ。」と言うと、「私も」と他の人たちも一緒になって同じ物に殺到するのも、よくあること。その勢いで、某スーパーのストッキング売場をほぼ空にしたり、ドラッグストアの特定の棚の商品を買いつくしたり…ということが起きる。自分で試してみて良いと思った物を買うわけではなくて、口コミで「よい」とされた物が、よい商品ということのようだ。自分の感覚で商品を選ぶというのは、海外の製品である以上、難しいのかもしれないけれど。

そんな中で、聞かれて一番困るのは、「〇〇の中で一番良い製品はどれ?」という質問だ。例えば、「洗顔フォームを買いたいんだけれど、一番良い製品を教えて。」「一番効くコラーゲンはどの会社の製品?」など。とにかく何に関しても「一番」を決めたがる。これだけたくさんの製品がある中、一番良い物なんて誰にも分からないよ、日本の女性はいろんな商品を試してみて、自分の肌や体に合う物を試行錯誤して選ぶんだよ、なんて答えは求められていない。欲しいのは「○○社の××という製品が一番いいのよ。」という明確な答えだけだ。それに気づいてからは、「ここの製品が一番売れているみたいだよ。」などという返事を、出来る限りするようになった。

私がそれ程買い物好きな人間ではないので、こういった買い物に付き合うのは苦手だ。特にベトナムの人たちが、昼間の会議では見せなかった気合いと集中力をお店の売り場で発揮し、目を三角にして買い物をしているのを見ると、少し怖い、と思って腰が引けてしまう。けれども、それだけ日本の製品を買いたい!と思ってくれることは有難いことだし、それだけベトナム国内にまだまだ魅力的な物がないということでもある。日本びいきのベトナムの人達は、日本にとっては大事なお客さんだし、市場としてのベトナムは、まだまだ未開拓なのではないかと常々感じている。

著者紹介

小尾晴(おび はる) 旧姓 大村
サイゴン証券株式会社 Director 兼 日本ビジネス開発部部長

小尾春氏

1973年石川県生まれ。
津田塾大学学芸学部国際関係学科卒業、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。大学院在学中にハノイ国家大学に留学。
農村開発調査コンサルタントとしてJICAやJBICの案件に参加後、日本アジア投資株式会社に勤務、ホーチミン市に赴任。
2007年よりベトナム最大の証券会社であるサイゴン証券株式会社に当時唯一の外国人スタッフとして勤務、日系顧客を担当。
現在は退職し日本に帰国、通訳として活動中。

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