今日の友は明日の敵?~中国労働裁判最前線③~ 【村上友治氏@深圳】

シリーズでお伝えした「中国労働裁判最前線」の最終回は、総括として今回の裁判を参考にしながら、原告が提訴した背景を分析し、その防止策をお伝えしたい。
まず、ここ数年中国全土で裁判所が扱った労働裁判件数を見ていだだこう。

2006年 約126000件
2007年 約151000件
2008年 約295000件
2009年 約317000件
中国最高裁判所データ参照

データから分かるように2008年からほぼ倍増している。深圳市の隣、製造業が集中する東莞市のある町では、2008年以降3人の裁判官で年間1000件もの労働裁判を処理しなければならないという。裁判官1人当たりほぼ毎日労働裁判が行われていることになる。これは、労使関係をより平等に、そして終身雇用を促進することを目的とした労働契約法(以下、労契法)が2008年1月に施行された影響である。

この労契法の影響を今回の事例と照らし合わせてみよう。原告とは法改定に基づき終身雇用契約を結んでいた。まさに、労契法の目的である雇用契約状態にあったわけである。にも関わらず、なぜ原告は提訴に踏み切ったのか。それは、今回の就業場所変更が労契法にある「一定の法的事由がなく契約不履行となった場合、企業は労働者に経済補償金を支払わなければならない」という一文に抵触すると自分なりに解釈したからである。この「一定の法的事由」というのは、明確にどういった事例を指しているのかは明記されていないが、判決は、「同一市内での就業場所変更は一定の法的事由があるので契約履行可能」ということで当社が勝訴した。

しかし、今後同じようなことが起こる可能性も否定できない。なぜなら、労働者が提訴する場合の経済的負担は、ほぼゼロなので気軽に提訴するという気運があるからだ。では、それを未然に防ぐためにはどうすれば良いのか。それには普段から企業の遵法姿勢を労働者に示すことが重要である。ポイントは2つある。

1つ目は、労働法関連の情報を労働者と共有するということである。特に、法改定が行れるなど労働環境に変化がある場合は、正式に施行されるまで待ってしまうと現場が混乱しかねない。事前にその内容を会議で伝え、掲示板に張り出したり、メール送信したりして共有することが重要である。はっきり言って、労働者の法律認識はまだまだ希薄である。インターネットや知り合いからの情報を鵜呑みにしている場合がほとんどである。今回の裁判もインターネット情報を鵜呑みにした原告が暴走した感は否めない。このような取り組みが労働者に企業の遵法姿勢を示すことになり、結果として無益な労働争議を未然に防止することに繋がる。

2つ目は、法的根拠となる物的証拠を日頃より準備しておくことである。白黒はっきり出来る証拠、つまり書面での通知書、サイン入り同意書などがやはり重要ということである。メール記録などもプリントアウトしただけでは有効な証拠にはならないが、公正証書として書面化することで効力を持つようになる。実際、今回の裁判でも店舗テナントの契約満期を迎える30日前に原告を含めた労働者に送信されたメール記録も我々にとって有利に働いた。このように白黒はっきりする物的証拠を残すのは当たり前と思われるかもしれないが、まだまだ慣行化していない企業も多いのではないかと思われる。

中国の労働現場では長く口約束がまかり通っていた。その約束も企業の都合で破棄されるケースが後を立たなかった。また、企業の遵法意識も薄く、労働者を酷使し、労働者はそれに耐えていた時代もあった。だが時は変わり、労働者の意識改革も進んでいる。結果、虐げられてきた労働者による反逆のように企業側を被告とした労働裁判が各地で頻発している。来年には正式に労働組合法が施行されると言われているため、更に労使双方が歩調を合わせていかなければならない。労使関係の改善は企業にとって重要かつ緊急の課題である。

著者紹介

村上友治氏
元威凌克餐飲(深圳)有限公司 火間土海岸城店 店長

村上友治氏

1976年和歌山県白浜町生まれ、兵庫県淡路島育ち。
大学卒業後、3年間日本で働いた後退職。2003年に中国西安西北大学へ語学留学。
その後、雲南省昆明と四川省重慶でホテル営業マンとして日系企業営業を担当。
2008年ベンチャー・リンク深圳に店舗管理マネージャーとして入社。
毎日の刺激的な変化の中で揉まれながら、
これからの中国を担う人材育成のために奮闘中。

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