今日の友は明日の敵?~中国労働裁判最前線②~ 【村上友治氏@深圳】

前回は弊社の労使問題が裁判に発展するまでの経過をお伝えさせていただいた。
今回は、裁判準備から裁判当日の様子をお伝えしたい。

まず、簡単に中国の労働裁判の流れについてご説明させていただこう。
原告は人民法院(裁判所)に直接訴訟することは認められず、労働争議仲裁委員会(以下仲裁委員会)の仲裁を受けてから人民法院の訴訟審理に入る。民事裁判では2審終審制を採用している。つまり、仲裁委員会での仲裁裁判が1回、人民法廷での民事裁判が2回の最長3回の裁判で結審する。仲裁裁判ではまず、原告からの仲裁申し立てを受け、審議し受理されれば原告へ開廷日時が通知され開廷となる。被告は仲裁委員会から仲裁申し立て書を受け取り、答弁書を提出する。この流れは日本と変わりない。

■準備期間
仲裁委員会の告知連絡を受け、実際に訴状を受け取ってから準備に入ったのだが、なにせ初めての裁判である。あらゆるルートを通じて情報を集めた結果、当方が勝訴する確率が高いという判断に至った。その為、当初は費用の事も考え、弁護士は雇わずとも自分たちだけで裁判に挑もうかとも考えた。しかし、「労働裁判の場合、人民法院は基本的に仲裁委員会の結審を支持するケースが圧倒的に多い」という情報が後に入り、万全を期して知り合いの弁護士を立てることにした。当方の勝訴確率が高い裁判ということもあり、費用も相場の半額程度で引き受けていただけることになった。

弁護士も決まり後は提出資料をまとめ、万全の準備をするだけであった。
焦点は当社が労働法に則って会社運営をしていることを証明することである。関連資料を全てまとめた結果、A4紙で300枚位にまで積み上がった。
その資料を基に弁護士と打ち合わせたところ、下記の6点あれば問題無いということが分かった。
①労働契約書(会社保管のオリジナル)
②1年間の給与証明(銀行振り込み記録)
③1年間の社会保険支払い証明
④今回生じた一部店舗従業員への補償金支払い証明とサイン入り領収書
⑤原告から受け取った退職理由書
(自分の意思による辞職を証明するもの。勝訴要素の一つになった)
⑥書面閉店通知書と事前通知していたメール記録
「これで100%勝訴できる」と弁護士から心強い言葉をいただいた。

■裁判開始
仲裁裁判当日、参加者は元従業員の原告に我々被告、両担当弁護士、仲裁員、議事録員、傍聴者1名であった。当時、かなり緊張し仲裁裁判に臨んだのが、仲裁員の遅刻という事態でその緊張はかなり緩んだ。そして、さあ裁判が始まると思った矢先、仲裁員は私を外に呼び出し開口一番、「和解する気はないか?」と聞いてきた。答えはもちろん「ノー」である。和解=補償金の交渉となる。
第2の原告が生まれる可能性も出てくるのでそれはありえなかった。

和解の意思が無いと確認すると、仲裁員が訴状を読み上げ、内容に相違が無いか双方の確認を取る。そして、原告、被告の答弁書を読み上げ、審議が開始された。まずは原告の主張からである。言いたい放題に自己主張が始まった。「自分は間違っていない。かわいそうだろ」と心情で訴えた。次に当方の番である。「我々は外資企業として労働法を遵守している。会社の状況も法に則り1ヶ月前に書面とメールで通知している。離職した従業員が閉店1ヶ月前に提出したサイン入り離職書もある。全ての手続きは法に則って行われており、なんら不備はない。」と真実をありのままに述べた。更に原告は状況証拠と、口頭の心情のみを延々と主張し続けたが、結果は明白である。原告の担当弁護士の表情も冴えないのが見えて取れた。数ヵ月後、果たして当方勝訴の書類が届いた。当然といえば当然の結果でありほっとしたが、原告は不服として人民法院へ提訴した。原告には基本的に弁護士費用も含めた提訴費用はかからないので、そうなることは当然予想していた。

この人民法院での民事裁判は弁護士を雇わず自分たちだけで挑んだ。理由は2つあった。一つ目は、前述したとおり「労働裁判の場合、人民法院は基本的に仲裁委員会の結審を支持するケースが圧倒的に多い」ということ。もう一つは、仲裁裁判時の弁護士から「民事裁判に向けて新たに準備する資料は特に無い。仲裁裁判のものをそのまま提出し、事実をありのままに述べれば勝訴できる」と告げられていたからだ。 審議の流れは仲裁裁判と同じであった。しかも今度は裁判官の遅刻というおまけ付であった。審議が始まる前にやはり、「和解する意思はあるか」と問われたが、答えはやはり「ノー」である。内容は仲裁裁判とそれほど変わらなかった。原告はやはり心情のみを訴えた。
しかし、退職理由書について問われると、口を濁した。また、労働契約書の内容にも不備を問われると何も言わなくなった。実は、当社の元人事担当であった原告は辞職前に勝手に内容を書き変えていたのだ。原告側にはこの回も仲裁裁判と同じ弁護士がついていたが、この点には開いた口が塞がらなかったようで同じように沈黙していた。結果はやはり当方の勝訴であった。二審終審制であるので、原告は上告できたのだが、さすがに諦めた。当社の完全勝利である。

よく中国は人治国家と言われる。法より関係が重要というわけだ。しかし、さすがに感情のみの訴状に、理路整然とした法的根拠という対立構造では不当判決は出る隙もなく、当方の主張は全面的に受け入れられた。とは言え、会社側に不備がありそうだと従業員に思われれば、すぐに付け込まれ今回のような事態に発展することになる。従業員には会社の取り組みや社会ルールを徹底周知させることが重要であると身に沁みて感じている。

著者紹介

村上友治氏
元威凌克餐飲(深圳)有限公司 火間土海岸城店 店長

村上友治氏

1976年和歌山県白浜町生まれ、兵庫県淡路島育ち。
大学卒業後、3年間日本で働いた後退職。2003年に中国西安西北大学へ語学留学。
その後、雲南省昆明と四川省重慶でホテル営業マンとして日系企業営業を担当。
2008年ベンチャー・リンク深圳に店舗管理マネージャーとして入社。
毎日の刺激的な変化の中で揉まれながら、
これからの中国を担う人材育成のために奮闘中。

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