近づく距離・広がる差 【小尾春氏@ベトナム】

ベトナムの各地方からやって来た高校生達が、あるプログラムで一同が日本にやってきた。私はたまたまハノイの子供達と接する機会が多かったのだが、その中で、改めて時代の変化を感じた。

来日草々、「ねえねえ、友達から頼まれて、日本の雑誌を買いたいんだけれど…」と彼らから尋ねられ、教えてもらった雑誌名が聞いたこともない名前。その場で携帯電話を使って検索したところ、コスプレの専門誌であることが判明。そう言えば、ベトナムでも日本語を学ぶ学生を中心にコスプレを楽しむ若者が増えていて、ハノイでその姿を時折見かけることもあったっけ。コスプレ用の服をオーダーメードで作るお店も、ハノイにはあるという話だ。

更に、日本の高校との交流会では、日本の高校生達に「『ワンピース』、知ってる~?」と尋ねられて、イエ~イと答えるベトナム人高校生達。それから片言の英語で漫画の話題で盛り上がる。パフォーマンス発表では、ベトナム側がヒップホップやビヨンセの歌などで盛り上げ、日本側はダンスで返す。ちょっとこのノリについて行っていない大人しい子がいるなあと思ってみていると、その子が実はガンダムの大ファンで、ベトナムでは買えないプラモデルを大量に購入したことが判明…。

こんな光景を、私は正直口をあんぐり開けて見ているような有様だった。少し前まで日本とベトナムで文化交流というともう少し堅苦しく、共通点も少ないことから話題を必死に探し、真面目な内容を話すようなイメージがあった。しかし今回、日本の若者文化がベトナムにも浸透していること、両者が普段の感覚で付き合える位、普段接している音楽や文化に共通点が増えていることを改めて感じた。

食生活も本当に変わってきたと思う。私が留学していた1990年代後半など、パスタやピザを好きな人なんて、ベトナムには全然いなかった。食べることがあっても不味いと言って殆ど口もつけず、ベトナム料理が一番だと満足そうに言う人が多かったものだ。だけれど、今ではベトナムでもケンタッキーやロッテリアが人気を集めている。日本に来た子供達もビュッフェに連れて行けばパスタやピザをお皿に山盛りにし、アイスクリームやケーキに群がる。ここ10年ちょっとで、彼らの味覚は大分変ってきたのではないかと思う。
 
逆に、ベトナム国内における格差の方が大きいように感じた。単純に経済格差の表れでもあるのだろう。今回ハノイやホーチミン市、その他の都市部に住む子供達が日本やアメリカの文化に親しんで、日本の子供達と本当に身近な感覚で話す一方、地方の特に山岳部の子供達や少数民族の子供達は、私が知る昔ながらのベトナムの子供達だった。特に少数民族の子供達の中にはお金もモノも殆ど持たず、10日近い旅行で他の子供達がスーツケースいっぱいに荷物を持ってきた中、小さなリュック一つで来日し、お土産なども殆ど買わなかった子もいた。家も貧しく、お金を殆ど持ってこなかったらしい。
全員がお土産を買いに行ってしまった中、一人集合場所に佇む彼に、「お土産はいいの?」と尋ねると「いいんだよ、モノは必要ない。日本で皆から気持ちをもらえたから、それで充分なんだ」と澄んだ目で返され、思わずうるっと来てしまった。私以外に彼らと接した日本人達も、彼らの純粋さにほだされ、短い時間でもグッと親しくなっていた。

日本とベトナムの距離が以前よりずっと近くなり、関係のすそ野も随分広がっていることを改めて感じた時間だった。これからもっとフランクな付き合いをできるようになるのだろう。一方でベトナムウォッチャーの私としては、今回出会った少数民族の子供達や地方の子供達が見せてくれた純粋さを、これからも見つめ続けていられればいいなと勝手ながら思ってしまうのだ。

著者紹介

小尾晴(おび はる) 旧姓 大村
サイゴン証券株式会社 Director 兼 日本ビジネス開発部部長

小尾春氏

1973年石川県生まれ。
津田塾大学学芸学部国際関係学科卒業、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。大学院在学中にハノイ国家大学に留学。
農村開発調査コンサルタントとしてJICAやJBICの案件に参加後、日本アジア投資株式会社に勤務、ホーチミン市に赴任。
2007年よりベトナム最大の証券会社であるサイゴン証券株式会社に当時唯一の外国人スタッフとして勤務、日系顧客を担当。
現在は退職し日本に帰国、通訳として活動中。

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