今日の友は明日の敵?~中国労働裁判最前線①~ 【村上友治氏@深圳】

今回は過去に当社で実際に起った労働裁判についてお伝えしたい。大変お恥ずかしい話ではあるが、今後中国に進出される企業の方々に少しでも労務環境の予備知識をもっていただきたいとの思いがあり記載させていただくことにした。 3回に分けてお伝えする今回は裁判が起こるまでの経緯を綴りたい。

結果から申し上げると、当社は勝訴した。しかし、在籍中は会社との関係が良好だった元従業員から提訴された時は「まさか」という想いが強く、改めて中国での労務管理の難しさを感じさせられた。第4回コラムでもお伝えしたが、2008年に施行された新労働契約法により、各地で労働裁判が頻発している。この新法は労働者への過度な保護という側面がある一方、企業側にとっては大幅なコスト増につながる。当社が直面した労働裁判でも最終的に勝訴するまで8ヶ月かかった。当社の場合、仲裁裁判を経て一審に当たる基礎人民法院裁判で決着したのでこの程度で済んだ。中国は二審(中級人民法院裁判)の終審制だが、もし上告されていれば1年以上の時間を要することになっただろう。

裁判を起こしたのは全部で3人。1人は女性で在籍5年のベテランAさん。彼女はなんと人事労務責任者であった。後の2人は男性で一般従業員。提訴内容は各人若干違っていたが、共通していたのは「労働契約内容変更に伴う経済補償金の支払い」であった。当時、当社が経営するあるレストランがテナント契約満期を迎えることになっていた。それに伴い、上記の3人を含めた一部の従業員には同じく当社経営の他店に異動してもらうことになっていた。しかし、「労働契約書内に記載されている勤務場所と異なるため従業員本人が異動を拒否した場合、補償金支払い義務が生じる。」というのが彼らの主張であった。

営業も残すところ2週間を切ったある日、当時の上司から、「Aさんが今月いっぱいで会社を辞めたいと言っているので村上さんも一度面談してほしい。」と伝えられた。この時「どうして今頃になって。まさか、、、」と悪い予感もしたが同時に、「ベテランであれだけ会社に尽くしてくれている彼女が。」と自分に言い聞かせた。ところが、悪い予感は当たってしまった。彼女は労働契約内容不履行に伴う経済補償金を要求してきたのだ。

彼女曰く、「これは労働者の正当な権利です。もらえる物はもらいたいし、会社には支払い義務があります。」我々からすると、「じゃあ、となりのビルに引越ししたとしても支払わなければならないのか。」ということになる。しかし、当時筆者も労働契約法を熟知していなかったので、「人事労務担当の彼女が言うのだからそうなのか。」と思っていた。結局、労働局、顧問弁護士などに問合せた結果、同一市内で新しい職場への異動が可能であれば補償金支払い義務は生じないということがわかった。

それを彼女に伝えると、「そうですか。でも新しい職場は家から遠いし、5月に資格試験があるのでこの機会に退職したい。」そう言われたので「では、辞職表を提出して下さい。」と伝えた。彼女の行動は明らかに自己都合退職なので、当然正式な手続きを踏んだ上で辞職してもらう旨を伝えた。しかし、「辞職表を書いたら補償金がもらえないので支払い同意書を書いていただければ私も書きます。」との主張である。そこまで理解しているのだから完全な確信犯である。その後数回面談を重ねたが埒があかず、この問題は一旦後回しにした。最後の営業日が迫っていたのと、支払い義務はないというこちらの主張ははっきり伝えているので、これ以上進展はないと判断したからだ。

結局、彼女は労働仲裁委員会に提訴し裁判が行われることとなった。
しかも心細く思った彼女は冒頭の従業員2人も巻き込んだ。この2人はすでに他店への異動に同意し、最終営業日前日の食事会でもグラスを交わし他店での活躍を期待していた。ここ数年、労働裁判頻発問題はネット、ニュースなどで盛んに取り上げられていたが、当社ではそんなことは絶対にないと思っていたことが実際に起った。各地で労働裁判が流行し、労務管理に細心の注意を払っていても従業員はネットなどで簡単に知識を得て簡単に裁判を起こす。しかも、弁護士は政府から無料で手配してもらえるので勝訴すればラッキー、敗訴してもなにも損はしないという考えだ。
テナント料、人件費、原価の高騰などによるコスト増。年々経営環境は厳しさを増している。加えて、今回のような労働管理コスト増と言った要素も加味しなければならない。
在中企業はこの環境変化への順応力が問われている。

著者紹介

村上友治氏
元威凌克餐飲(深圳)有限公司 火間土海岸城店 店長

村上友治氏

1976年和歌山県白浜町生まれ、兵庫県淡路島育ち。
大学卒業後、3年間日本で働いた後退職。2003年に中国西安西北大学へ語学留学。
その後、雲南省昆明と四川省重慶でホテル営業マンとして日系企業営業を担当。
2008年ベンチャー・リンク深圳に店舗管理マネージャーとして入社。
毎日の刺激的な変化の中で揉まれながら、
これからの中国を担う人材育成のために奮闘中。

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