台湾茶農家に学んだ共同生活のコツ。~仲間達との心地よい寝起き~【市島宋氏@台湾】

華やかであった旧正月が終わり暫くの日常が過ぎ去るころには、
茶園は美しい若葉色に萌え上がる。新茶の季節である。
台湾でお茶といえば、摘み取った茶葉を日光に晒した後に室内で萎凋させながら
適度な発酵を施して作られる半発酵茶いわゆる烏龍茶が主流なのだが、烏龍茶を作るには、
日本茶のように摘み取った茶葉に素早く熱を入れて発酵を止めて仕上げる緑茶に比べると
『発酵』という工程が加わる分、多大な手間と時間が必要となる。

製茶の繁忙期になれば1ロットの烏龍茶を仕上げるために2~3日かかる工程を、
1日のうちに『午前中に摘んだ茶葉』と『午後に摘んだ茶葉』の2ロットずつ
ローテーションで製茶してゆくのだから、まるで『かえるの歌』の輪唱のように
作業量が積み重なってゆくことになるのだ。この約1ヶ月の間、茶農家たちは
いくつかのチームに分かれ交代で仮眠をとりながら24時間体制で作業にあたることになる。

私も実際に何度も彼らと寝食を共にしながら烏龍茶を作っているが、
毎回仮眠生活に慣れるまでの3~4日目の辛さといったら無い。
しかし、こんな時ほど小さな幸せに気付くもので、眠りに就けるときの幸せなこと。
毛布に包まるだけで「あっ」という間に温かい暗闇に吸い込まれてしまう。
反面、交代のときには「もっと寝かしといて~」などと思う間も無く
起きなければならないのだが・・・。しかしそれは仲間達も同じなので、
私達は心地よく熟睡している仲間達をスムーズに起こす方法を共有している。

その方法とは、寝ている仲間の足の親指をゆっくりギューッと引っ張るのだ。
もちろん指が抜けるほど勢い良く引っ張る必要はございません。
片方の親指だけでは起きない場合は、両方の親指を引っ張ってみましょう。
それでもダメな場合は親指を引っ張り上げて足を少し浮かせるようにすると
大抵の人は目覚めるはず。

実際に起こされてみると分かるのだが、ふだん足の親指が引っ張られる 感覚など滅多に無いものなので、脳がただならぬ不安感(アラーム)
のようなものを覚えて極めてスムーズに身体が起きてくれる。それでいて
起こしてくれた人は足元にいるので程よい距離感が保たれていて安心なのだ。
確かに心臓や顔に近い枕元で肩を揺すられながら「交代だぞ!」と言われるより
起こされる側の負い目もなく、起こす側も寝起きの悪い仲間に無意識の頭突きや
腕力を振るわれる心配も無く極めて合理的なのだ。

どの地方の茶園でも大抵この方法で交代しているので不思議に思い、
後日友人に尋ねてみると「兵役の習慣だよ」とのこと。台湾の兵役については、
企業から見て、それによって若年男子が業務を習熟するための貴重な時間が奪われている
との意見もあるが、私が感じるに茶園と言う閉鎖空間の中で共同生活を送る能力については、
台湾人男子のほうが兵役を知らない日本人男子では太刀打ちできないほどに発達している。

著者紹介

市島宋氏:台湾福茶代表

市島宋

1974年、宮崎県生まれ。宮崎産業経営大学卒。
スポーツインストラクターを経て、国内のエンジニア派遣会社に入社。主に台湾、韓国、アメリカで数多くの半導体・液晶パネル工場立ち上げに携わる。
2000年、偶然口にした一杯の烏龍茶に魅せられてお茶の世界へ転身、台湾省 茶業改良場の有機栽培研究員と共に約2年間現地の茶農家を渡り歩き茶業全般を 学び2003年に台湾福茶を立ち上げる。
現在も台湾を拠点に、馴染みの茶農家 達とお茶を作りながら活動している。

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