中国のサービス業における入退社時のポイント【村上友治氏@深圳】

第4回 「入るも制して出ずるも制す」~中国のサービス業における入退社時のポイント~

今回は中国のサービス業における入社と退社時のポイントついて、実例を交えながらお伝えしたい。
このポイントを抑えておけば、現在進行形で激変している中国労務環境に伴う労働闘争の予防にもなる。

中国のサービス業に従事する従業員のほとんどは地方の農村出身で、学歴も中学、良くて高校卒業程度である。
残念ながら現在の中国における学校教育では、躾や道徳教育分野に限定すれば、ほぼ崩壊状態と言っても過言ではない。
その為、就職前の彼らは少なくとも躾において、まともに教育も受けてない子供と同じである。
そんな彼らの多くが、都市での最初の就職先として飲食業などのサービス業を選ぶ。
二食の食事付き、寮付きの環境状況が整っているためである。
その為、軽い気持ちで入ってくる求職者も多く、当然離職率も高い。

それに加えて、2008年に新労働契約法が施行され、我々経営側の立場からすると、極端に労働者を保護する傾向が顕著になった。
例えば、労働仲裁裁判(簡易裁判)はどんな労働者でも簡単に起こせる上に、無料で政府から弁護士を手配してもらえる。
このことから、2008年以降の労働仲裁に関する労働争議処理件数は以下のように急増している。

2007年・・・50万件
2008年・・・96.4万件
2009年・・・87.5万件
*『人力資源および社会保障事業発展統計公報』各年版を参照

その為、在中国法人は仮にどれだけ誠意を尽くして従業員教育を行っていたとしても、元従業員を相手に簡単に労働仲裁裁判まで発展しかねない環境に曝されているのである。
この件については、次回のコラムで改めて詳しくお伝えしたいと思う。

そんな背景から、入退社時は特にしっかり対応すべき必要がある。

まずは、入社時のポイントを5点にまとめて見た。

1)軽い気持ちの求職者には断固たる態度で注意を促す。

指定時刻に遅れる、肘をついて面接に臨むなど、社会人としては最低限の当たり前となる躾。
「まあ入社してから注意しようか」。
ではその後の育成計画に多大な影響を及ぼし、結果的に双方の時間と費用を無駄にすることになる。
前回のコラムでも触れたように、サービス業では目先の人員不足が慢性的に続いていることから、とりあえず人数の確保が必要という事情もあるにはある。
しかし、結局そういった人材の多くは結局すぐに辞めて行く。
働くことへの意識が低い10人を集めるよりは、躾がしっかりできた意識の高い人材を1人取った方が長い目でみて費用対効果が高い。
但し、その為には自ら見極めた人材を親代わりとなってしつけて行く覚悟が必要だ。

2)初めから呑めない要求ははっきりノーと伝える。

日本人がよく「考慮しておく、検討する」。
と返答することは、彼らからすれば、要求は同意
されたものと勝手に認識してしまう。社でも以前、求職者が現金を持ち合わせていなかったことから、例外として従業員寮のデポジットを取らずに入寮許可したことがある。
その後、その従業員が金品を持ち逃げした、という事件が起こった。
例外を認めると結局それが例外でなくなり、後々の労務管理に重大な影響を及ぼす。

3)入社が決まった時点で必ず社内規則にサインをさせる。

このサインがあるのと無いのではその後の対応が全く変わってしまう。
良く中国を「人治国家」だと表現されることがある。
それも事実であり否定はしないが、コインの片面しか言い表わしていないように思う。
同時に中国は「ある意味」厳格な「法治国家」でもある。
「無」法の人治国家なのではなく、「膨大」な法律が存在する。
ただ、その「法」解釈が「人」に寄るところ大なのである。
その人による解釈にブレを生じさせない為にも、何事も文書での履歴が絶対条件となる。
その意味で、社内規則へのサインは従業員に邪な気持ちを生じさせないための楔にもなる。
また、労働問題が勃発し、更に前述のような裁判までに発展した時に、この社内規則へのサインは絶大な効果を発揮する。
用心には用心を重ねる必要があるのだ。

4)求職者に「当社で働く魅力」を存分に伝える

当社では面接マニュアルを作成している。
面接は通常1時間くらいかけて行う。
中国のサービス業の面接時間としてはかなりの長時間と言って良いだろう。
求職者に「当社で働く魅力」を存分に伝えるという目的の為に大半の時間を割いている。
まず、必ず「将来の夢」を聞く。
そして、その夢を実現するために当社がどういう手助けができるかを一緒に模索する。
会社と求職者がWinWinの関係になれるかどうかを互いに協議して行くことで、個人にとって会社がどういう存在になりえるのかを理解してもらうのだ。

5)最終面接時には必ず責任者が面接する。

前述のポイントからもわかるように、入社時の面接は躾教育、労務リスク回避の、求職者との絆を作るなどの絶好のタイミングである。
よって、これらの部分を雇用責任の無い採用担当者に任せることはできない。
採用担当者が事務的に履歴書を審査し、待遇条件を通知して、安易に採用を決定してしまうケースも多くみられる。
そのようなステップを踏むことは有効求職者を選別するという意味では必要であろうと思う。
しかし、採用前に必ず雇用責任のあるポジションの者が意志を持って対面することは当社では必須なこととして考えている。

以上が入社時に当社が気を付けているポイントである。

引き続いて退社時のポイント2点をお伝えしたい。

1)退社が決まった時点で必ず退職届けにサインをさせる。

退職届へのサインは自己都合退社の何より証拠となる。
サインをした退職届は一定期間、必ず保管して置くようにしたい。
労使双方が穏便な関係だからと言ってこの処理を曖昧にすることは得策ではない。
過去このサインが無かったために、その後労働仲裁裁判に発展したケースもある。

2)自動離職者に対しては、解雇通知書を掲示板に貼り、会社全体に知らせる。

中国の労働法では、退社する場合1ヶ月前に本人のサイン入り書面での通知が必要だが、中には「明日辞めます」と突然告知してくる者もいる。
告知してくるのならまだ良い方だが、給料振り込み後そのまま来なくなるという者もいる。
この場合、無断欠勤が3日続くのを待ってから、必ず書面での解雇(自動離職)通知書を掲示板に貼り、会社全体に知らせる。
何故このようなことをするかと言うと、このような従業員が仮になんらかの理由で労働裁判を起こした(実際にありえるのだが)場合の一つの確かな証拠となるからである。

著者紹介

村上友治
元威凌克餐飲(深圳)有限公司 火間土海岸城店 店長

村上友治氏

1976年和歌山県白浜町生まれ、兵庫県淡路島育ち。
大学卒業後、3年間日本で働いた後退職。2003年に中国西安西北大学へ語学留学。
その後、雲南省昆明と四川省重慶でホテル営業マンとして日系企業営業を担当。
2008年ベンチャー・リンク深圳に店舗管理マネージャーとして入社。
毎日の刺激的な変化の中で揉まれながら、
これからの中国を担う人材育成のために奮闘中。

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