アジア起業家インタビュー第2回テレビ司会者・番組プロデューサーMatsu(阿松)氏

第2回は台湾のテレビ番組「台湾大口食べ歩き」でご活躍中のMatsu(阿松)氏へのインタビューです。
「アジア起業家インタビュー」のコラムでなぜMatsu氏へのインタビューなのか?と疑問に思う方もいらっしゃると思います。

実はMatsu氏、タレント活動だけでなく、企画から制作・編集、そしてナレーターまで全て自ら行うことでこだわりの作品を作り上げています。
そこには単にメディアで活躍する一タレントを超えた、マルチメディアプロデューサーとして企業家的視点が鋭く織り込まれています。
企業経営者の方々にもご参考になる部分も多々あるのではないかと思います。

Q:この世界に入られるきっかけになった経緯をお聞かせ下さい。

Matsu

当時はニュースステーション、朝まで生テレビなど実態に鋭く迫る番組や、久米宏、筑紫哲也、鳥越俊太郎といった、視点の鋭いキャスター達に事欠きませんでした。
そんな番組やキャスターによる報道は常に何か惹き付けるものがあり、いつも食い入るように見ていました。
そんな経緯から自然と「報道ジャーナリスト」という世界に興味を持つようになって行きました。
就職も迷わず放送の世界を志し、放送業界へと進むことになりました。

Q:なるほど。では台湾との出会いはどういったものだったのでしょうか?

もともと旅行が好きで学生時代から頻繁に海外へも旅行をしていました。
海外でも私の映像好きは変わらずで、いつもテレビを通してその国を感じるようにしているんです。
大学卒業直前に台湾にもひと月ほど滞在しました。 台湾でも連日テレビを見ていたのですが、ニュース、バラエティー、スポーツ、ドラマと大変幅広く、日本のように素人参加の歌番組なんかもあったりして、とても種類が豊富で華やかに映りました。 当時でも50~60はチャンネルがあったんじゃないでしょうか。
バラエティーなどは効果音なども頻繁に入れるといった独自の文化もある。
多言語国家なので北京語あり、台湾語あり、客家語ありで、ほとんどの番組に字幕が入る。
海外の放送世界でいつか勝負してみたいと常々思っていたのですが、中でも台湾の華やかな放送世界にはとても興味を感じ、この土俵で自分も活躍できたら、と思ってました。
そんな思いを持ちつつ活動を続けていましたところ、知り合いのまた知り合いを通じて「台湾のグルメ番組をやって見ないか?」というお誘いがありました。
海外で、そして台湾で勝負してみたいと思っていた自分にとっては夢の叶うチャンスだと思い、お受けしました。
そうして生まれたのが「台湾大口食べ歩き」というわけなんです。

Q:そういうことだったのですね。さて、その在台日本人だったら誰でも知っている「台湾大口食べ歩き」ですが、 実は少人数で大変効率的に運営されているとのことなんですね?

はい。
一つの番組を作る際には通常7~8人が1チームとなり、それぞれに役割があります。
ディレクター、プロデューサー、コーディネーター、マネージャー、メイク、カメラマン、そしてタレントといった具合です。
更にアシスタントを付けたり、構成作家やナレーターなどの役割を加えると更に増えます。
私の番組では、構成・原稿作成から始まり、タレントとしての活動、その後の編集も、そして実はナレーションも自分でやっています。
カメラマンや字幕付けまではさすがに自分ではできませんので、これは人に頼むことになります。
ですので、結果的には2~3人で全て番組が作り上げられていることになります。

Q:すごいですね。1人何役になるのでしょうか。片手では収まらないほどの多種多様な 役割を一手に担われているのですね。しかし、なぜ通常の体制ではなくそのような 体制で取り組まれることになったのでしょうか?

Matsu

皆さん各分野のプロを自任している為、それぞれにこだわりがあるんです。
例えば、タレントとしてアピールしたい点がディレクターにとっては番組の意図に合わずに映像としては使われないとか。
シナリオ通りに進めたいばかりに、現場で融通が利きづらく、やらせのような映像になってしまったりとか。
私が中学時代に感銘を受けた番組は、それぞれの立場で目指す目的や焦点が合っていたんだと思うんですね。
しかし、最近の番組はどうもしらじらしいものが多くなって来ていると言うか、視聴者からも見てもあからさまに仕組まれた製作側の意図を感じる番組が多くなって来ているような気がするんです。
それならば、自分で全てやってみたらどうだろうか、と思ったわけなんですね。
自分の番組で複数の役割も自らこなすならば矛盾なく思うようにできる。そう思ってこのスタイルで挑戦してみることにしました。

Q:なるほど。番組にこだわりを追求した結果、行き着いたスタイルなのですね。しかし、そうなるとご自身に求められる要素が多岐に渡る為、別のご苦労も生じて来るのではないでしょうか?

そうですね。
やりたいように出来て柔軟性が高まる一方で、物理的、技術的な制約を通常の体制よりも受けることになります。
ですので、視聴者の立場から見て必ずしも必要とされていないと思われているものは思い切って切り捨てるなどの覚悟も必要です。
例えばで言いますと、夜の撮影はあまりやりません。
夜にやると照明担当が別途必要になるからなんです。
視聴者から見ても、私の番組では別に夜である必要はありません。
それから、取材した飲食店の地図や店名なども敢えて付けていません。
お店側から是非付けて、と言われることもしばしばですが、それでも付けていません。
私は必ずしも食べたからと言って肯定的な意見ばかりを言うとも限らないんです。
もし、地図や店名など映像に付けてしまうと、タレントとしてはどうしても大げさに肯定的に言おうという心理が働いてしまいます。
できるだけ本音の生の声を視聴者に届けるにはその方が良いと思っています。
もちろん、地図や店名を付ける作業を省けるという編集上のメリットもあります。
また、カメラマンの位置配置も全て予め指定して撮影します。
視聴者から良く聞かれることの中に「どうしてカメラ目線でないのですか?」という質問があります。実は編集の立場からするとカメラ目線というにはとてもNGが出やすい映像なんです。
例えば、カメラ目線で撮影中に周囲で予期しない現場のノイズや騒音が入ったらその時点で映像はNGになってしまいます。
しかし、今の撮影の仕方ならハプニングをMatsuがそのまま追いかけてもそれは臨場感のある現場の映像として使うことができるんです。
もちろん、それぞれの分野で技術的な向上が必要だと思っています。
やらせ感の無い臨場感のある映像を視聴者に伝えると言うこだわりは守りつつも、それぞれの役割での技術的なレベルを極力引き上げて行きたいと思ってます。

Q:こだわりや信念を守りつつ、効率化という視点も忘れずに、マルチなプロフェッショナルを目指す。経営の世界にも大いに通じるものがありますね。

Matsu)自分では正直、経営とかビジネスという感覚はないんです(笑

こだわり続けた結果、今の形に辿り着いたと言った感じでしょうか。
ただもちろん、何をするにも制作費など費用のことから離れて自由にはできませんから、先ほど申し上げたようなこだわりや信念に照らし合わせて不要と思えたり、やり方を変更しても構わないと思えることは大胆に試しています。
こうやって経営的視点でインタビューを受けますと、そういった視点でも更に考えないといけないと感じますね(笑)。

Q:規模の大小に関わらずどの企業にも理想とする理念、信念、ビジョンがあり、その状態に到達すべく日夜現実と戦っています。Matsuさんにも理想とする放送世界の強い信念やこだわりがおありになって、それをしっかり体現しつつ、本職として生活基盤も保たれている。素晴らしいことだと思います。経営者としてMatsuさんのお話を参考にすべきは、第一に自分の信念をしっかり持ち続け、ぶれないこと。第二に常識にとらわれず、信念に基づいて視聴者や顧客に何を供給すべきかを考える。常識であっても不要なものは場合によって切り捨て、変更すべきは大胆に変更をする。第三にマルチなプロフェッショナルを極めること。これからは一人二役でも足りない時代になるのですね。さて、最後にMatsuさんの今後の展開についてお聞かせ下さい。

まずは、地域軸で行けば中国への展開にとても可能性を感じています。
「大口」でも以前四川省での撮影を行いました。
中国のインターネット「土豆網」などにも映像が載り始め、最近では中国でも声をかけられる機会が増えてきました。
また、中国のテレビ局から依頼を受けることも出てきました。
やはりアジアでの映像の世界では台湾発中国、アジアというルートが確立されているという実感があります。
次にメディア軸で行けばテレビ以外での展開にも可能性を感じています。
最近台湾で初めて本を出版することができました。またラジオへの出演もあり、テレビ以外での出演も幅を広げて行きたいと思っています。

お忙しい中、ありがとうございました。今後も益々のご活躍を祈念しております。

MatsuMatsuMatsu

Matsu:テレビ司会者・番組プロデューサー
台湾のテレビ局で放送の食をテーマにした旅行

Matsu

番組「大口吃遍台灣(大口吃遍世界)」のMCを務める日本人テレビ司会者、番組プロデューサー。
本島の東西南北、金門、馬祖、蘭嶼、緑島、小琉球等を食べ歩き、「食の風景」を伝えている。
ロケでは、台湾のみならず、中国、アメリカ、カナダ、日本なども訪問。
番組は、国際チャンネルを通じて、香港、シンガポール、マレーシア、マカオ、ベトナムなどアジア6か国、地域でも放送。
現在は、テレビ番組製作の傍ら、司会、執筆、講演なども行う。近著:「大口吃遍台灣〜タイワングルメの旅」(四塊玉)。
番組出演:「WTO姐妹會」(八大第一台)/「聚焦360度」(年代新聞台)/ 「台湾ミュージアム」(台湾国際放送ラジオ)/「大台北城」(緑色和平電台)/「キッチンスター」(浙江テレビ)/「今天吃什么?」(大連テレビ)など。
座右の銘:做最壞的打算,盡最大的努力(最悪の想定をして、最大の努力をする)

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