中華のお盆(中元節)【市島宋氏@台湾】

去る8月31日は、旧暦の7月15日にあたる中元節だった。
中元節は日本のお盆にあたり、台湾のスーパーや百貨店ではお供え物用の食料品や酒類をはじめ中元節にあわせたセールが催され、
店内は通路を埋め尽くさんばかりの買い物客でごった返す。
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中華圏でお仕事をされている方には、
この時期になると商店街の軒先で卓上に供物を並べてお祈りしている光景を目にされる方も多いだろう。

いったい中元節とはどのような行事なのであろうか?実際に参加してみたのでレポートしてみたい。

中元節とは、旧暦の1月15日に催される『上元節』に続いて7月15日には『中元節』、
次いで10月15日の『下元節』と行われる道教に基づいた年中行事の一つだ。
これらを合わせて『三元』と呼び、上元節では「天官大帝」、中元節では「地官大帝」、下元節では「水官大帝」と言う具合にそれぞれ神様の誕生日を祝うのだが、
中元節で祭られる地官大帝は冥界の帝という側面を持っているために、故人の彼岸での安寧を願い特に盛大に執り行われるのだ。

そしてもう一つ、中元節を中心とした旧暦の7月1日から30日までは「鬼月」と呼ばれ、この期間中は現世と冥界を隔てる門が開かれるとも言われている。
つまり、1日から開き始めた冥界の門が15日には全開になり、再び閉まり始めて30日を最後に現世と冥界は再び隔てられると言うのだ。

お気づきの方も多いと思われるが、中元節は満月にあたる。
私は烏龍茶を通じて農業に関係しているために旧暦に接することが多いのだが、
二十四節気に見ることができる美しい呼び名にしても、冥界の門の開閉を月の満ち欠けと重ねるあたりにしても、古代の人々の風雅さと想像力には羨望の念を禁じ得ない。

話は逸れたが、つまり冥界の門が全開となる中元節には主賓(神様)である地官大帝の他に、ご先祖様、そして冥界の門から大挙して押し寄せる精霊達で巷は溢れかえるのである。
そして、現世を生きる我々はと言うと、彼ら姿なき客人を接待するために奔走することとなるのだ。

今回、私達が準備したお供え物を書き出してみる。
まず、前日からボイルして準備しておいた丸鶏と豚肉3斤(1800g)、粽5個、5種類の果物を3個ずつ、お菓子、焼酎、ビール。これを2セット用意した。

なぜ2セット用意するかと言うと、中元節でお祭りする対象が4件あることに由来している。
つまり、1つのセットで2件のお客様を接待することになるのだ。
便宜上『セットA』、『セットB』として説明してみたい。
もちろんセットの内容は上記の通りであり、どちらも同じである。

下の表は、それぞれのセットで接待するお客様と、接待する順番を1から4の数字で表している。

『セットA』『セットB』
1.地官大帝 2.土地公
3.ご先祖様 4.好兄弟(精霊)

接待の順番は、まず主賓である地官大帝と神々であるので、早朝から近くのお宮にお供え物『セットA』を持参して神卓に並べてお参りをする。
面白いのは、お供え物を並べた後、神様が食事を終えるまで待たなければならないことだ。

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その間、同じくお参りに来ているご近所さん達と井戸端会議に花が咲くのは言うまでもない。
微笑ましい風景だ。

それが終われば一端『セットA』は自宅に持ち帰り、『セットB』を持参して「土地公」と呼ばれ親しまれている土地の神様を接待しに行く。

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この「土地公」という神様は、例えるならば各地のエリアマネージャー的な存在で、その土地で暮らす人々の生活を見守る神様だ。
御神体は、お爺さんとお婆さんの老夫婦で祀られていることが多く、台湾の至る所で見かける小さな祠の多くは、この「土地公」である。

持参した『セットB』を同じように神卓に並べて「土地公」の接待を終えて再び持ち帰れば、
今度は最初にお宮から持ち帰った『セットA』を家の神棚に並べてご先祖様を接待する。

これで早朝から始まった行事もようやく一段落、私達も昼食にありつけることになる。

そうして夕方を待ち、最後に「好兄弟」と呼ばれる精霊達を接待する際に軒下や門の前に卓を構えてお供え物を並べるのだ。

私達がこの時期に良く目にする風景はまさにこれなのである。
日本の旧盆(旧暦の7月15日)にも「施餓鬼」と呼ばれる仏教の法会があるが、
おそらく中国に於いて道教と仏教が習合したものが日本に伝わったのではないかと思われる。

ちなみに、なぜ「好兄弟」は軒下や門の前で接待が行われるか聞いてみたところ、
「我が家が気に入ってしまい、そのまま居座ってもらっては困るから玄関の外で接待する。」とのこと。
微笑ましいようでちょっと不気味な感じが、お盆テイスト満載で堪らないではないか。

さて、「好兄弟」の接待も終えて夜になると、皆がお楽しみの時間がやってくる。
今日一日接待で使われた食材を使い家族揃っての食事となるのだ。

もちろん、酒類もあるから相当に豪勢な宴会となるわけだが、
小さな子供達にとっても普段は食べさせてもらえないほど沢山のお菓子やジュースがお咎め無しなのだから嬉しく無い訳はなく、
家族全員がなんとも円満な時間を過ごすことができる。

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いやいやそればかりではない、現世を生きる我々だけには止まらず、
天地の神様もご先祖様も精霊に至るまで喜ばしいひと時を過ごすのが中元節なのである。

それにしても心情とは不思議なもので、誰でも美味しい料理をお腹いっぱい食べて周りの笑顔を眺めて居ると、普段のイライラなど忘れて大抵のことは赦せてしまうものであるが、
じつは主祭神である『地官大帝』は、別名を『赦罪大帝』とも言うらしい。
なんと、中元節の行事は贖罪の意味も含んでいるのである。
昔から伝わる風習はほんとうに良くできているなぁ、と驚くばかりである。

著者紹介

市島宋氏:台湾福茶代表

市島宋

1974年、宮崎県生まれ。宮崎産業経営大学卒。
スポーツインストラクターを経て、国内のエンジニア派遣会社に入社。主に台湾、韓国、アメリカで数多くの半導体・液晶パネル工場立ち上げに携わる。
2000年、偶然口にした一杯の烏龍茶に魅せられてお茶の世界へ転身、台湾省 茶業改良場の有機栽培研究員と共に約2年間現地の茶農家を渡り歩き茶業全般を 学び2003年に台湾福茶を立ち上げる。
現在も台湾を拠点に、馴染みの茶農家 達とお茶を作りながら活動している。

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